第19話

俺を先頭に、メロ、美咲の順番で入っていく。すぐに生ゴミの腐った臭いが鼻についた。受付を確認すれば、女性の死体があった。俯いているため、どんな表情をしているのかはわからない。けれど、顔からナイフの柄が飛び出しているため死んでいることは間違いないだろう。殺し方からして、どうやらゾンビ化したところを殺されたらしい。顔にナイフを突き立てるなんて、人間を殺そうと考えたとしても、まず選択肢のなかに入ってこない方法だったからだ。


「俺ら以外にも人が来てるかもしれない」


「その可能性は高いね」


 いつの間にか隣に並んでいた美咲が神妙な面持ちで頷いた。


「ゾンビになったところを刺されたとしたら生きている人間がいてもおかしくない。遠くから逃げて来た人も、この場所を見れば一時的でもここに避難するだろうし」


「そっちの方が私たちにとっては厄介かもね」


 メロは非常階段の扉を指差した。


「エレベーターは使わない方がいいと思う。流石に全部屋満室とは思えないから、空いてる部屋を確認しにいこ?」


「わかった。なるべく音は立てないようにしていこう。あ、あと、鍵だけ回収しておかないと、マスターキーとかあれば一番便利なんだけど、回収されてしまってるかな」


 受付に入り、順番に引き出しを確認する。荒らされているのか、ボールペンや紙の切れ端、破れた出退勤表などが出てくるものの、鍵はなく、繋がりそうなものも特に見当たらない。


「お兄ちゃん。そこにあるのって、キーボックスじゃないかな?」


 死体の足元に箱があった。わざと誰かがそうしたのか、死体の足に踏まれている。あまりの臭いに、片手で鼻を押さえながら足をどかす。キーボックスを取り出し開ければ、すでに鍵は回収されていて空っぽになっていた。


「ま、そんなもんだよね」


 メロは落胆した様子も見せず、淡々と言った。


「あとは、そのおばさんのポケットの中とかに無かったら、諦めて車で寝るしかないね」


 死んでいるとわかっていても、気持ち悪さにえずいてしまう。好き好んで死体をまさぐりたいとは到底思えない。ただ、そういう趣味の人にとって、この世界はきっと天国に違いない。ズボンのポケットや胸ポケットを順番に確認していく。なにも入ってない。ちらりと首元になにかがあるのがわかった。ネックレスを親指と人差し指でつまみ、引っ張り上げる。先端に鍵がついていた。


「当たりじゃん」


「おぇ、まじ気持ち悪い。吐きそう」


「お兄ちゃん、頑張ってあと少しだよ」


 殺意が湧く。それでも今日の夜のお楽しみのために、ネックレスを外し、鍵を回収した。


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