第17話
俺は美咲の元へ向かい、荷物を受け取り、女の車に詰め込んでいく。普通自動車の中でも大型のため、シートを倒せば自転車も載せられそうだった。
俺は運転席に、女は助手席、美咲は後部座席に座った。今まで運転したことのない車種だったから、エンジンの付け方やサイドブレーキにまごついたものの、なんとか前進することに成功する。
「さて、どこに向かえばいいのか」
「お兄ちゃん、南下していった先のところで避難民を集めてるみたい」
どこかのユーザーが投稿したのか、看板の写真がスマホに表示されていた。そこには、自衛隊の文字と、食料や清潔な水があることなど記載されている。
「ひとまずは、そこに向かうか」
「お姉さんもそれでいい?」
美咲の問いかけに女は頷く。
乱雑に停められた車を避けながら出口へとハンドルを切る。長い直線のスロープになっていて、真っ直ぐ降りられるようになっていた。
「おい、助けてくれ」
中腹ぐらいに警備員の格好をした五十代くらいのおじさんが全身で息をしながら、登ってきている。その後ろには、あの男がゾンビになっておじさんを追いかけていた。
「私は……噛まれてない、まだ、……感染してないんだ。私も、はぁはぁ……乗せていってくれ」
「お兄ちゃん、あれどうするの?」
「そんなの、聞かなくてもわかるだろう」
「まさか、あんた助けるつもりじゃ?」
「あぁ、ある意味な」
俺はアクセルを踏み、おじさん目掛けておりていった。激しい振動があった。そうして、なにかを轢いた感触も、生きた人間に危害を加えるのは初めてだったけど、ゾンビを殺していたからか、高揚感以外はなにも感じなかった。
「これでこの地獄から解放されただろう?」
「あんた、見かけによらずエグいことするね」
「なにか問題でも?」
「別にないけど」
女は暑いのか、手をうちわ代わりに扇いでいる。首筋に流れる汗がまっすぐ胸の膨らみへ、谷間へ落ちていく。下腹部に強烈な熱を感じる。このぶつけようのない憤りを早くぶつけたくて仕方がない。
俺は深呼吸をした。車内に満ちる独特の香水の匂いが鼻腔をくすぐる。過ぎていく風が心地いい。
「そういえば、二人とも名前なんて呼べばいいの?」
「俺は薫、後ろは妹の美咲、そっちは」
「私は、メロ、夢にロシアの露で、夢露……キラキラネームってよく言われるけど、私は気に入ってるから」
なんとも言い難い気まずい雰囲気を察したのか、どうでもよかったのか、メロは窓に顔を向けて、流れる景色を見ているようだった。
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