第15話

 美咲も緊張の色を隠せないのか、もともと白い顔が青白くなっている。それも無理はない。コンビニとは違い、店内は広く、いつ多数のゾンビが襲いかかってきてもおかしくない状況となっている。


 万が一のためにガチャで手に入れたワクチンをポケットに忍ばせている。ただ、本当に効果があるのかは未知数のため、こればっかりはやってみるしかない。実験もできないから、本当の意味で賭けに近い代物だった。


 俺はバットを握り締め、美咲は包丁を持ってきている。遠距離でも戦えるものがあればよかったが、一般家庭にはそんなもの置いてなかった。


 やはり店内は荒らされていた。商品棚は倒れ、あちこちにガラス片や空き缶、ゴミが散乱している。もしかしたら、食料をめぐって争いがあったのかもしれない。慎重に歩みを進めていく。そこかしこで蚊やハエがたかっている。きつい腐敗臭が鼻腔を襲う。たまらず、Tシャツを鼻を覆うように持ち上げる。唯一の救いだったのは、まだ、電気がついており、店内には冷房がかかっていること。電気が止まってしまえば、ここは誰も近寄れなくなるだろう。


 生鮮食品のコーナーや、めぼしいところを順番に確認していく。ただ、もともとのパニックもあり、在庫が少なかったのにあわせてこの緊急事態、さっきのコンビニよりも収穫はなかった。美咲の生理用品とコンドームだけ回収して店舗の外に出る。


「離してよ、離してってば」


「俺を見捨てるつもりか。お前、いままで散々遊ばせてやったのに、なんだよ、その言い草は」


「そんなこと関係ないじゃん」


 以前にマンションで鉢合わせた、カップルがこの炎天下のなかで掴み合いをしていた。どうやら男の方は怪我をしているみたいで、左腕から血を流している。よく見れば歯型のようなものまでついている。


 女の方は黒いトップスを着て、下はジーンズ、最近の若い子のような服装をしている。時折、ヘソのピアスが反射して目がチカチカする。


「もう、無理なの。助からないの。だから、放っておいてよ」


「なんでやねん。まだわからんやろ。それにお前一人でなにができんだよ。全部俺任せにしてたくせに」


 騒ぎ過ぎたのだろう、少しずつゾンビが男の背後から近づいてくるのが見える。いい気味だと思った。やっぱりああいう連中から死んでいかないと、あまりに世の中不公平だ。


「おい、お前何見てんだよ」


 男と目が合った。ゾンビ化が進んでいるのか、両目ともに充血し、黒目が少しずつ、白濁していっている。


「なにっていうか、後ろからゾンビ来てるよ」


「はぁ?」


 男は後ろを振り向くのと同時に、ゾンビに襲われた。将棋倒しのように、女も一緒に押し倒される格好となる。俺は逃げるよりも先にこの展開の終結を見たかった。もちろん、安全のためにバットは固く握りしめている。


「お兄ちゃん、逃げないの?」


「うん、どうやってゾンビになるのかも見てみたいし、それに気分いいから」



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