第13話

 自転車の前カゴから拝借しているバットを取り出す。コンビニの自動ドアにもたれかかるようにして、男がだらしなく座っている。上裸に穴の空いたズボンを履き、こちらに向けた靴底には穴が空いている。漂ってくる汗のきつい臭いから判断すると元々浮浪者だったのかもしれない。


 反応もないためもう息絶えているかもしれないけど慎重に一歩ずつ近づいていく。胸の鼓動がうるさい。バットを構えいつでも戦えるようにスタンバイしておく。


あと数歩のところで、ゾンビがこちらに気付いた。ただ、足が不自由なのか、座りながら両手をこちらに突き出しもがいている。


「お兄ちゃん。チャンスだよ」


 わかってるよ。そんなことぐらい。胸のなかで毒付いても仕方がないけど、いきなり人を、人だったものを殴りつけるのは、かなり勇気がいることだった。それでも、大きく息を吸い、止める。視線があった。なにか伝えたいことがあったのか妙な間があった。ただ一度流れた水は留まることを知らないように、放たれた力はそのまま頭の天辺に落とされた。


 目玉が転がってきてスニーカーの爪先に触れた。


「気持ちわる」


 そのまま蹴飛ばすと、側溝に落ちていった。それと同時にスマホの通知音がなった。


「さすがだね。一発で殺せたよ」


 美咲は動かなくなったゾンビを蹴り上げる。入り口を封鎖していたゾンビは、うつ伏せに倒れて、ただただ血を垂れ流していた。


「もしかしたら施錠されてるかも。……よいしょ、うん、開かないね。これはもう壊すしかないよ」


 持ってきていたカバンの中からトンカチを取り出す。


「はい、お兄ちゃん、これで壊してよ」


 トンカチを受け取り、少し離れる。どれくらいの力加減かもわからないけど、強くやりすぎて怪我をしても困るため、ちょっとだけ力をいれて自動ドアを叩いた。反動で手元からトンカチが後方に飛んでいく。


「危ないな、もっと離れたほうがいいよ」


「大丈夫、もう離れてるから」


 美咲は曖昧に笑っている。


「それならいいや」


 今度は力一杯、叩きつける。ガラス全体に大きく、細かいヒビが入る。防犯用の強化ガラスなのか簡単には割れない。


「これ、かなり時間かかるな」


 ひとりごちて、何度も何度も叩きつける。次第に割れるというよりもヒビがどんどん広がっていき、ようやく通れるくらいにまで穴が広がった。



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