第12話
小気味のいいチン、という音と共に、エレベーターは1階に到着した。
不用心かとも思ったが、もしゾンビがいれば、すでに階段から上がってきているはずだとも考え、そのまま乗り込む。幸いにも今日も電気が使える。あとはいつ使えなくなってしまうかが、電子機器に依存している俺たちにとって、最大の懸念点になっていた。
エントランスから歩道へ出る。アスファルトのザクザクした感触が使い古したスニーカーから伝わる。高校生の時分から使っているもので、薄汚れてはいるものの、まだ使用できるからと踵の部分がヨレヨレになっても履き続けていた。
ひりひりとした痛みに、たまらず空に向かって手をかざす。遮るもののない陽光は、もはや苦痛といっても過言ではない。年々、太陽との距離が近づいていると言われても信じてしまうほどに、激しく降り注いでいた。
「日焼け止め塗ってきたらよかったのに」
「いいよ。コンビニはすぐ近くだし。ま、そこで調達できなかったら、スーパーまで足を伸ばさないといけないけど」
駐輪場から自転車を引き出し、美咲を荷台に座らせる。法律に違反しているけど、今となっては誰も咎めないだろう。
美咲はジーンズに白のロングTシャツというラフな格好をしている。引きこもり始めてから服を購入することもなく、胸の成長もあってほとんどのものは着れなくなってしまったらしい。そうして俺のを勝手に使ってはダメにしていっている。
「お前の服も探さないとな」
「別にいいよ。誰に見せるわけでもないんだし」
当分外に出ていなかったからか、美咲は異様に白かった。街中の風景から切り取られたように浮いてしまっている。あまりに場違いな容姿に、これが平和な日常だったら周りからの注目も凄かっただろうなと思ってしまう。
「ほら、はやくいこ」
「わかったよ」
マンションからコンビニまでの道は、徒歩で5分、自転車に乗れば2分ほどで到着するほど、近いところにあった。場所もわかりやすく、エントランスを出て右にまっすぐ行けば、看板が見えてくる。いつものこの時間帯なら子供の遊び声や、散歩中の犬の鳴き声が嫌でも聞こえてくるのに、風にざわざわとする生垣や、自転車の錆びたチェーンの音だけがあった。車通りもなく、通行人もいない。この世界に二人だけしかいないのではないかと思えるくらいに、静けさに満ち満ちていた。
「お兄ちゃん」
「わかってる」
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