第10話

 美咲は野菜炒めの玉ねぎを器用に避け別の皿へ移しながら、話していた。


「いや、それでもお前になにかあったら俺は」


「私を一人にするの?お兄ちゃんがゾンビに噛まれて帰ってこなかったら、それこそ私はどうやって生きていけばいいわけ?」


 美咲は今にも決壊しそうなほどに涙を溜め、こちらを見ていた。お風呂上がりで上気した顔、元々整っていた容姿は大人になるにつれて、危険な、それこそ一線を越えてしまいそうなほどに、色気に満ち満ちている。透き通るように白い肌、若くシミひとつない健康的で触れれば跳ね返ってきそうなほどの弾力、俺とは子供の頃からあまり似ておらず、兄妹として疑われるくらいに似ていない。鼻筋も通った端正な顔立ちに薄いピンク色の唇、母に似て胸は大きく育ち、いつの間にかTシャツを勝手に使われているけれど、もう形は崩れてしまっているくらいに大きく実っていた。


「それは、そこまで考えてなかったかもしれない」


「だと思った。絶対に一緒にいくから」


「玉ねぎ食べないの?」


「お兄ちゃんにあげる」


 美咲は堆く積まれた玉ねぎの塊を差し出した。


「俺、もう食べ終わってるんだけど」


「私も」


 睨み合いが続くなか、俺は諦めたようにワザとらしく皿を受け取ると口の中に放り込んだ。野菜炒めのタレもかかっていて、それほど苦くもないのに、なぜ食べれないのか不思議だ。こんなに美味しいのに。


「ありがとう」


「どういたしましてっと、今日はめっちゃ疲れたから俺はもう寝るわ」


 俺は美咲の分もあわせて食器を台所の流しに置いた。汚れが固まらないようにある程度、お湯で流す。温かくなったからか、ボンっと間抜けな音が台所から鳴った。


「私の部屋、もう使えなくなったから、お兄ちゃんの部屋で一緒に寝ていい?」


 美咲はシャカシャカと歯を磨きながらなんでもないような感じで言った。


「それやったら、俺はソファで寝るで」


「うー、今日は一緒に寝よ。ほら」



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