第9話

 美咲を待っている間にスマホを開くと、いつの間にか知らないアプリがインストールされていた。名前は「ゾンビキラー」アイコン自体は真っ黒で何もわからない。とりあえず、開いてみると、同じく真っ黒な背景にガチャとだけ書かれたボタンが真ん中についている。そのまま続けて押してみると、商店街のくじ引きに似た画像が中央にあり、その下には「ガチャを回す」の文字がある。さらに下部へスクロールしていく。各レアリティの排出率、「ガチャレベル1、ノーマル(白)80%・レア(青)15%・スーパーレア(銀)3%・ウルトラレア(金)1.5%・レジェンド(虹)0.5%と書いてある。初回特典として、高レアリティ排出率UP、通常5個必要なクリスタルを3個に減額中とも記載があった。


「なにこれ」


クリスタルは、ちょうど3個だった。そうして、今日殺したゾンビの数は合計3体。


「まさかな。でもとりあえず、引いてみるか」


 中央にあったくじ引きをタップすると、そのまま周り続け、玉が台座に転がった。金色に輝いており、背景には花火のようなエフェクトが出ている。もう一度、タップすると金の玉が割れて、『ワクチン(5分以内)』という表示がある。スマホを触っていない左手にはいつの間にか小型の注射器が握られていた。


「え、なにこれ」


 注射器を確認するとシールが貼られており、スマホに表示されていた「ワクチン(5分以内)」という文字がそのまま記載されている。フォントまで同じだった。


「このアプリのガチャを回すと、現実世界で使用できるアイテムが貰えるってことなのか?でもこのワクチンってもしかして、ゾンビ化してしまった人を戻せるとかじゃないよな。もし本当にそうなら、結衣は……」


 頭ではわかっている。このガチャは3体のゾンビを殺したからできたもので、あのタイミングではアプリの存在に気づいていたとしても間に合わなかったこと。たとい、ワクチンが手元にあったとしても、首筋を深く噛みちぎられていた状況では助けようがなかったこと。理解はできても心で納得できない。


 無意識のうちに涙がこぼれていた。いつの間にか泣き始めていた自分に驚きを覚える。涙を拭きながら、冷静を保つように自分に言い聞かせる。これからどれだけ困難な状況に直面するかわからない。だから、今は強くならなければならない。美咲のためにも。


 美咲がリビングに戻ってきた時、俺はすでに涙を拭いていた。彼女の顔を見ると、何かを感じ取ったのか、心配そうに俺を見つめている。しかし、すぐに笑顔を作り、「ご飯、食べよっか」と言った。


「明日は、近くのスーパーとかコンビニに食料とか残ってないか確認しに行ってみるよ」


「私もいく」


「ダメだ。危ないから家にいて欲しい」


「お兄ちゃん、一人の方が危ないよ。だって、ゾンビがいつ襲ってくるかわからないし、一人で行くより二人で行く方が安全だよ」



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