第7話
病弱だった母は、そう長くは生きられないと思っていた。ある程度は覚悟していたけど、こんな最後になるなんて想像もできない。まさか家族に殺されるなんて。心が理解することを拒絶しているのか、不思議と涙は出てこなかった。
「頭、つぶさなくても大丈夫かな?お兄ちゃん、まだ動く可能性もあるから、これで終わらせてあげて」
「こんなもん、どっから持ってきたんだよ」
「隣の男の子、野球部なんだって。廊下に置いてあったから勝手に借りてきちゃった。でも、みんなの共用部分なのに、物を置いておくなんて、ダメだよね」
手渡された金属バットを握る。まともに触ったのは小学校の野球の授業以来だった。あの当時は重く、もっと大きく感じていたが、いまとなっては軽い。こうやって気づいていくことが大人になるってことなのかもしれない。
「ほら、早くしないと。いつ復活するかわからないから」
言われるがままバットを振り上げる。あとは、力強く振り下ろすだけ。顔が見えなくて本当に良かったと思う。きっと耐えられないから。それでも走馬灯のように母が病にかかる前の、あの幸せだった頃の三人の時間、思い出が蘇ってくる。
「いいの?私がゾンビになっても」
「死んだお母さんと、私、どっちが大事なの?」
「う、ううう、うわぁーーー」
目を閉じて思いっきり後頭部を叩いた。反動で両手が痺れる。握力さえ最早ないのか、バットは手から離れ、血溜まりのなかへ落ちていった。
「お兄ちゃん、ありがとう。きっとやってくれると思ってた」
美咲に抱擁されながらも呆然と考えていた。母親の死、ゾンビ、久しぶりに話す妹と、変わりすぎるその態度、今日1日であまりにも色々なことが起きすぎている。
「お兄ちゃん、ちょっと臭いかも。シャワー浴びてきたら?あとはこっちで片付けておくから。着替えも用意しておくし」
追われるように廊下へ押し出される。振り返れば閉まり始めるドアの隙間から、妹が少し笑っているように見えた。
「きっと疲れすぎて、変なこと考えたんだ」
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