第6話

 駐車場の空いている区画に停車する。


 大規模な集合住宅のため常に複数の空き区画があった。血濡れのハンドルに、赤い手形のついたドア、普通なら警察に通報されていてもおかしくない。不審な出立ち。


「社用車だし、どうでもいいや」


 カバンを片手に、屋内へとずんずん歩いていく。マンションの2階に住んでいるため階段でもよかったが体力が限界だった。


 エレベーターが降りてくる。開いたと同時に乗り込もうとすると、若いカップルとぶつかりそうになった。


「じゃまや、どけ」


「あ、すみません」


 上下スウェットに、茶髪のホスト崩れみたいなチンピラと、胸ばっかり育った脳に中身が1ミリリットルも詰まってなさそうな女が電子タバコを吸いながらエントランスへ向かっていく。


 いつも通り鍵を差し込みドアノブを回す。


「ただいま。母さん、美咲、無事なのか?」


「お兄ちゃん、お母さんが、……早く助けて」


「え、なにがあったんだよ」


 革靴を脱ぎ捨て、妹の部屋へ飛び込む。


「お母さん、お母さんが」


 もう嗅ぎ慣れてしまった血の臭い、錆びた鉄のような鋭い異臭が鼻腔を貫いた。足元には見慣れた背中が転がっている。首筋には冗談みたいに包丁が突き刺さっていた。


「母さんを殺したのか?」


「違うの買い物から帰ってきて、すぐにお風呂にいったの。汗をかいたって言ってたから流すために入ったんだと思う。それから1時間くらいずっとシャワーを出しっぱなしだったから、気になってドアを開けたら、噛みつこうとしてきて、慌ててリビングに逃げたの。それで刺しちゃった」


「ゾンビになったってこと?」


「そう。お兄ちゃんにも教えてあげたでしょ?あの動画の通り、ゾンビなんだよ」



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