第3話
撮影者は、行き止まりの壁を背に待ち構えている。小刻みに映像が乱れているのは、手が震えているからなのか。それとも走って息を切らしているからなのか。またはその両方か。音を消しているため、話しているのは確認できないが、息遣いが聞こえてきそうなほどに緊迫感があった。
奥から三人の男女が歩いてくる。共通しているのは、全員服装が乱れており、女性に関しては、下着を姿だった。いずれも、肌は白く、口元には血が滲んでいる。
意を決したのか、撮影者は、女性に体当たりをして逃げようと試みる。何かにつまづいたのか、引っ掛けられたのか、前のめりに倒れたところを覆い被さられ、手や足を噛まれてしまったようだった。よくできたホラー映像だとも思う。特に指を噛みちぎられているところは、CGの入り込む余地がないほどにリアルだった。
「そういえば戻ってくるの遅いな」
廊下とリビングを仕切るドアをあける。暗い廊下にスマホのライトを向けた。廊下の左側には洗面所やお風呂、右側には洋室がある。洗面所から順番に確認していくも誰もいない。洋室の扉に手をかける。なにかが挟まっているのか、びくともしなかった。
「お客様、なにかありましたか?」
返事もないため、扉に耳をあててみる。
ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぎぎ。
咄嗟に力を入れるも、やはり何かに引っかかっているようで一向に開かない。一歩後ろに下がって思いっきりドアを蹴り飛ばす。開いていくドアの隙間から、客が転がっていくのが見えた。
室内に飛び込む。濡れた感触がして、足元を見れば、結衣が仰向けに倒れていた。首筋からは血が大量に溢れている。噛みちぎられたのか、大きな人型の歯型が複数ついていた。
「結衣、なにがあったんだよ」
「薫、ごめんね、大好きだよ……」
結衣の右手がそっと頬に触れて、力なくフローリングに落ちた。跳ねた血が顔にかかる。もう瞳はなにも映していない。
客が不格好な匍匐前進しながら結衣の身体に近づいてくる。怒りに任せるように、足を振り上げ、男の後頭部をめがけて全力で振り下ろした。骨の折れる鈍い音が聞こえた。
「死ね」
何度も何度も何度も何度も頭を蹴り続けた。思いのほか頭蓋骨が硬く、運動不足の身体にはかなり応えたが、どうにか動かなくなった。スマホから聞き馴染みのない通知音が聞こえたが、そんなことはどうでもいい。
「なんでだよ、なんでなんだよ。俺には無理だよ。お前がいなかったら生きていけないって」
「やっと付き合うことができたのに、お互いに好きになれたはずなのに、なんでこんなことで奪われないといけないんだ」
最後は二人だけでいたい。結衣の身体を抱え上げリビングまで運ぶ。そっと床に寝かせると一緒に横になった。意識が次第に溶けていき眠りに落ちた。
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