14_得たモノ~obtained some things~
ゲームセンターで盛り上がった二人だったが、その後は特にどこかへ行く予定を立てていなかったので、真中の希望で古本屋へ足を運んでいた。
「まさかハジメがそんなにハマるとはなぁ」
「俺だって驚いてるよ」
家で読み終えた本の続きが売られていることを願いつつ、真中は地元よりも大きな古本屋へ着くと、『ライトノベル』と書かれた棚を見つけて物色し始める。
紫よりも淡く、そして少し青みがかった
「お、あったあった……って、あれ?」
取り出した本を見て、最初に感じたものは違和感だった。
良く言えば『味がある』、悪く言えば『古い』印象を受けた表紙絵とは違い、画集の表紙にも見えるイラストが描かれていたからだ。
気が付くと、他にも同じ巻数であるにもかかわらず、表紙が違うイラストになっているものがある。
「あぁ、それも学校のやつと同じシリーズだぜ?」
「……え?」
「真中に貸し出した本だけど、あれは2000年代に発売されたやつで、そこから10年くらいしたら『新装版』って言って、中身は同じで表紙が新しくなったんだよ」
「……ふ~ん……」
『中身が同じなのに表紙を変えて何の意味があるのか?』と疑問を感じた真中だったが、同じ内容ならば好みのイラストの方が良いと思い、真中はそれらを選んで手に取っていく。
「やっぱ新装版だよなぁ。旧装版も捨てがたいけど、途中から表紙の感じが変わるからなぁ」
「いや、何となくだけどな……」
うんうんと一人で何か納得している比和だったが、その後おもむろに本棚からいくつかの本を取り出してきた。
「あと、この本とかも中々良いぞ。がっつり異世界——ってわけじゃなくて、現代風の世界でこことは違う世界って世界観が好きなら、面白いと思うぜ? 作者も同じだしな」
目を輝かせながら、嬉々として紹介してくる比和には悪いが、真中の予算はそれほど多くない。
「あ~……
「心配すんなって、値段見てみろよ」
「う~ん…………え?」
言われるがままにしぶしぶ巻末部分に貼られている値札を見て、真中は驚いた。
「……マジで?」
その価格は自販機でジュースを一本買うよりも安かったからだ。
「新刊を買うとなったら、こうはいかないけどな。中古で買うと結構安いんだぜ?」
古本と言っても、漫画だとこうはいかない。それに、読みきるのにかかる時間も漫画の何倍もかかると考えると、ライトノベルとはいえ、小説も捨てたものではない気がしてきた。
「そうみたいだな。ただ――」
ただ、真中が手にしている本は、片手で持てるものの持ち続けていると腕が痛くなってくる程度には量がある。
「う~ん……」
予算的には何とかなる――が、いくらこれらの本が全部地元の古本屋に置いてあるかどうかの保証はないとはいえ、今まで小説を読んでこなかった真中がいきなりこれだけの量を買い、読み切れるかは不安だった。
そもそも、学校で借りた本の続きが読みたいと思っただけなのだ。落ち着いて考えてみると、全てを買う必要はない。
「………………やっぱりこれだけにしとくよ」
そう言って、真中は続きの一冊だけを選び、他は棚に戻した。
「そっか……まぁそうだよな。いきなり何冊も買うって結構勇気がいるしな」
少し寂しそうに笑う比和には申し訳ないことをしたと思う真中だが、本を一冊だけに絞ったのは、金銭的な問題以外にも理由があった。
「それもあるけど、課題がなぁ……」
ゴールデンウィークが始まる前に、真中は担任の佐藤から課題が出されていたのだ。
「先生から出されてたやつか? どのくらいあるんだ?」
「5ページある英文の翻訳だな。一日1ページ訳していけば間に合う計算なんだろうけど……」
先生曰く『ハマると面白い』らしいが、どうもその境地にまでは達せていない。
今日のこともあったので、あらかじめ少しは進めてみようとした真中だったが、その進み具合はあまり良くない。
「そっか……なんか悪いな、課題があるのに連れ出しちまって」
「いや良いって。俺だってずっとこもりっきりは嫌だったし、いい気分転換になったよ」
実際、帰ってから少しは課題を進めようという気にはなっている。ゴールデンウィークにこれ以上予定を入れることは難しそうだが、三日もあれば何とかなるだろう。
そう前向きに考えていた真中だったが、比和は無理に連れ出してしまったと思ったらしい。
「だったら、明日から課題が終わるまで手伝うよ」
比和の方から、そう提案があった。
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