12_対決~Match up with X~

『それじゃぁ次の対戦者だけど、なんと今日が初めてのプレイらしいよ! 配信者として自分がやってるゲームに、新たに参入してくれる人がいると嬉しいよね!!』


 比和に基本的な操作方法と動き方を教えてもらっていると、真中の番はあっという間に訪れた。


「よ、よろしくお願いします」


 自分の操作が他人に見られる――それどころか、全世界に発信されているということに、真中は今更ながらとんでもないことをしていると感じながらも、それが現実だと感じられずフワフワしていた。


 だから思わず口から出てしまった言葉だったものの、その声は設置されているマイクが拾っていたようだ。


『ほいほい、よろしくね〜』


 どこからかともなく声が聞こえてきた。


「うぉっ!?」


 声のした方を見ると、画面に被らないように、それでいてクリアに声が届けられる絶妙な位置に、マイクとスピーカーが設置されていた。


『アハハッ――そんなに驚かなくても大丈夫だよ! トークアプリで対戦者と対話できるようになってるだけだから。たまに他の人のコメントも拾うから、びっくりするかもしれないと思ったらミュートにしてくれたら良いからね』


「いえ……あっはい……」


 どちらともつかない返事に、マイクの向こうにいる人――声色的には少女と言ってもいいような年頃の女の子も可笑おかしかったようだ。


『フフッ――面白い返事だね、それってどっちなの?』


 クスクスと笑いながら、相手は手際よくキャラクターや他の設定を選択していくが、真中はそれとは対象的に、制限時間が来たせいで勝手に選択されていった。


 スピーカーをミュートにするかどうかを考える時間なんてものはない。


『うーん……ホントに初めてみたいだけど……大丈夫?』


 『初めて』という言葉は謙遜けんそんを込めているものだと思っていたのか、かけられてくる声はどこか不安が混ざっている。


「友人が『欲しいものがある』って言うから協力してるんですよ」


『そっか……まぁ楽しんでね‼』


 そう言うと、画面の中央には見計らったかのように『FIGHT‼』の文字が表示され、相手キャラクターが滑らかに距離を詰めてきた。


「うおっ――」


 思わずボタンを押してしまった真中だったが、それが思わぬ奇襲になったようだ。飛んできた相手にカウンターを当てるような形で攻撃が決まる。


『お、なかなかやるじゃん』


 倒れた姿勢から素早く体勢を立て直し、戦闘を続行する相手キャラクターだったが、その距離は戦闘開始直後より少し近づいた程度にとどまっている。


『次は当てるよ!』


 そう言って繰り出してきた攻撃は、当たっても痛くないものの、反撃をするには隙の短いものだった。


「くっ……」


 軽くひるむだけで、吹き飛ばされるようなことはない。ただ、HPゲージはどんどん赤い範囲が広がっていく。


「えっと……確かこうやって……」


 比和に教えられたように、慣れないレバーを操作して攻撃コマンドを入力するが、そんなものがうまくいくはずもなく、空振りかあるいは別のコマンドが入力されたことになってしまう。


『初めてなのにコマンド入力を含めて攻撃してくるってすごいよね~ ボクなんてコマンド入力して攻撃しようと思うようになったのって、三日目からとかだよ?』


 配信のコメントを拾っているのか、戦闘中だというのに向こうからの声が途切れることがない。


 その後も、何度か真中が攻撃を当てては当てられての繰り返しがあり、相手の残りHPがわずかになった頃になると、『TIME UP』という大きなフォントと、その後に『YOU LOSE』が浮かび上がってくる。


 そんなことが二、三回繰り返されると、最後には『GAME OVER』の文字まで出てきた。


『お疲れさま~! 楽しかったよ‼ 次は配信に遊びに来てくれると嬉しいな‼』


「あ~……はい……」


 負けた――


 その事実は変わらない。ただ、意外とあっけなく終わってしまったことに、真中の心の奥では、ほんの少しのくやしさがくすぶっていた。


「ハジメ、お疲れさん。その顔は『悔しい』って感じだな……ようこそ、ゲーマーの世界へ!」


 そう言って肩を叩いてきたのは、いつの間にか後ろに来ていた比和だった。


「あ、あぁ……次は友喜ともきか……」


 席を譲るために立ち上がり、そのままゲーム機から離れようとした真中だったが、


「ハジメ、ちょっと待ってくれるか?」


 そう比和が言ってきたことで、真中は立ち止まることになる。


「え?」


「スタッフさん、ちょっといいっすか?」


 近くにいたスタッフを呼んでそう確認した比和だったが、これから何をしようとしているのか真中には理解できなかった。


「はい、何でしょうか?」


「こいつ、オレの友達なんですけど、せっかくだから後ろから見ていてもらおうかなぁと思ってて……大丈夫っすかね?」


 比和の要望に対して、スタッフは少しうなった。


「うーん……個人的にはOKを出したいところですが、それを認めちゃうとここにいる人たちの収拾がつかなくなるので……ね?」


 ただ、二つ返事でOK、というわけにはいかなかった。


「あ~……それなら仕方ないっすね」


 ここで無理を通しても仕方ないと判断したのだろう。比和はあっさりと引き下がり、真中には『ごめんな』とジェスチャーをして席についた。


 真中も、そこまで比和の遊んでいる姿を見たいわけでもなかったので、そのまま順路を進んでいこうとしたところだった。


『え? 次の対戦相手はヤバいの? 何――って、え? 全国10傑⁉ うっそでしょ⁉』


 コメントを読んでいた少女の驚きの声がスピーカーから聞こえてきた。

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