11_ゲームセンターで~Learning the whatever~

 高校生活初のゴールデンウィーク――


 それは、入学して間もない生徒からすれば一息つくことができる大型連休であり、失った気力を回復させるためにゆったりと過ごすには絶好の機会だ。


 それは真中にも当てはまることで、彼自身、このゴールデンウィークは無難に過ごして英気を養う――……はずだった。


 風向きが変わったのはゴールデンウィーク前日、放課後に避難した図書室で、比和に勧められるがままに借りた本が、思いのほか真中の琴線に触れた。


 比和に『続きが読みたくなるだろうから』と言われて半ば無理やり借りることになった続刊も、気が付けばゴールデンウィークの初日で読破してしまっていた。


 活字をあまり読まない真中にとって、ライトノベルと言えば本来『そこそこ文字量のある本』になるのだが、ストーリの長さ、テンポ、物語の起伏――どれをとっても比和が薦めてきた本は読みやすかった。


 そのおかげもあってか、続きが気になって仕方がない真中は、日曜日に比和が誘ってきたことを良いことに、古本屋へ続編を立ち読みに行こうと計画していたほどである。


 ゲームセンターで開かれるイベントに誘ってきてくれた比和には悪いが、正直なところ『朱峰みらい』という人物にほとんど興味はない。だから――


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」「みらいちゃぁぁぁぁん‼」「M・I・R・A・I! ミライ‼」


 大型ディスプレーに向かって叫ぶ太めの男性陣の勢いに、真中は若干たじろいでいた。


「すごい熱気だな……」


「あぁ、あの人たちは『登山家』って言って――要は彼女の追っかけだよ」


「……なんで登山家なんだ?」


 見た目でいうと、確かにそう見えなくもない風貌をしている人がちらほらいる。ただ、それが原因ではなさそうだ。


「彼女の苗字に『峰』の字が入ってるだろ? 峰ってのは山頂のことを指すから、それを追いかける人たちで『登山家』って言うんだよ。まぁ俺もその一人なんだけどな」


「…………なるほど?」


 比和には珍しく説明がよく分からなかったが、何はともあれこの光景が彼女の取り巻きでは日常風景なのだろう。


 あえて突っ込むことをやめ、真中は改めて自分が一体何のイベントに比和と参加しようとしているのかを確認してみる。


 『月刊マニアックゲーマーズプレゼンツ 朱峰みらいゴールデンウィーク耐久企画 ギルティガジェットオンライン対戦1000本ノック day3』


「え、このイベント3日目なの⁉」


 真中の驚愕する姿を見て、比和はケラケラと笑う。


「まぁ簡単に言えば『勝ち負け問わず1000ラウンドやって、レートがどこまで上がるか挑戦する』ってことがあの子のやってることなんだけど、、1試合は最大60秒あるからな。6割のの40秒で済んだとしてもトータル4万秒、試合時間だけで12時間はかかる計算だからな? 休憩時間を挟んだらもっとかかるから、彼女の体調のことも考えて一日3時間までで、ゴールデンウィークは毎日やるらしいんだよ」


 イベントの期間やその主旨については理解した。ただ、については疑問が残る。


「オンライン対戦なんだろ? なら、何でわざわざここまでくる必要があるんだ?」


 オンラインゲームならわざわざ遠出する必要はない。それどころか、やりなれた自宅で対戦するほうがリラックスもできていいはずだ。


 だというのに、比和はあえて遠出してきた。そこが真中の引っかかるところだ。


「理由はいくつかあるんだけどな、大きな理由としては『このイベントは家庭用ゲーム機とのクロスプレイするテストプレイの一環』ってのと『テストプレイをしているのは特定のゲームセンターだけ』『参加者全員にゲームで使える特別なスキンのコードがもらえる』ってとこかな」


「……ちょっと待て友喜、お前もしかして――」


 このイベントに勝ち負けは関係ない。つまり、比和の狙いは――


「『頭数を増やしてランダムでもらえるコードの数を増やそうとしてる』ってことか⁉」


「お、ご明察~! ちなむと『勝者にはランダムコードが二枚もらえる』ってなってるんだけど、とりあえず参加だけしてくれたら助かるんだ……な、頼むっ!」


 両手を合わせて頭を下げてくる比和だが、彼の頼み事はかなりハードルが高い。


「え~……初心者の俺がそもそも挑戦するってのもだし、配信されてるんだろ……? 俺、映りたくないんだけど……」


「その辺は大丈夫だ! 参加するにはあらかじめ登録する必要があるんだけど、その時にプレイ時間とどこまで配信に映していいかを聞かれるから、そこで断っとけばいけるぜ!!」


「………………はぁ……」


 こんなところまで呼び出してきたのだから、外堀を埋めてきていることは当然と言えばそうだろう。


「下手だからって笑わないことと、基本操作を教えてくれるならやってみるよ」


 そういって真中が折れると、比和は顔に満面の笑みを浮かべた。

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