03_決戦はゲームセンターで~Duel of the Gamers~
二人が『GG』と略すゲームの正式名称は『
正直、真中はこのジャンルのゲームをあまりやったことがないので、二人からいくらこのゲームの面白さを説明されても『そう言うゲームがある』程度にしか受け止められなかった。
「なぁ、ホントにやるのか?」
だから、
「もちろん! いくら話が
「それはこっちの台詞ッス! ……って、空いてないみたいッスね?」
見ると、運悪く二人がこれからやろうとしていたゲームには先客が居るようで、ご丁寧に
「5連勝って結構強いんじゃないか……? もうじゃんけんとかで決めたら良くない?」
真中なりに良い解決策を提案したと思っていたが、比和は首を横に振った。
「ハジメ、お前ってやつは……せっかくオフで筐体を向い合わせにして、
「まぁ、そう言われたらそうだけど……」
「それに、戦う前から諦めてたら、勝てる試合も勝てねぇぞ?」
「……あの人に勝てる自信はあるのか?」
真中の質問に、比和は「まぁ見てなって」と言うと、おもむろに筐体へ100円玉を入れてゲームを始めた。
「とりあえずやったら分かるっしょ」
「まぁそうだけど……」
真中はうまく言いくるめられた気がしたが、比和は挑戦者画面の設定をどんどん進めていく。
「えぇ……あのお兄さん大丈夫ッスか?」
そしてそれを後ろから見ていた少女は、比和が選択したキャラクターを見て驚いた。
「あのキャラは難しいの?」
少女は「うーん……」と少し唸ってから真中に説明し始める。
「難しいのもあるッスけど、対戦相手との相性が最悪なんス。ほら、あの扇を二つ持ってる男キャラッスけど、お兄さんのお友達が選んだキャラだと総合での勝率が大体40%前後なんスよね」
「え、それってつまり……?」
「これで勝てたらお兄さんが相当強いか、相手さんが相当弱いか、あるいはそのどっちもって事ッス」
困惑する少女の解説も一段落つくと、比和の準備も終わったようだ。
画面に『FIGHT!!』と大きく文字が写し出され、それと同時に二人の攻撃の応酬が始まった。
5連勝している方は、舞を踊っているかのようにくるくると扇を回したり、
どちらが優勢かははっきりと分からないものの、時々少女から感嘆するの声が出ているところを見ると、余裕のある勝負をしているようだ。
対照的に、相手からは「何でだよ!?」とか「はぁ!? ふざけんなよマジで!!」と、やや強い口調の罵声が飛んできていることは努めて聞かないようにする。
そしてゲームが進行していくと、比和が削られる体力よりも、相手を削る方が明らかに多くなり、最終的に対戦相手は連勝記録をリセットする事になった。
相手が『マジあり得ねぇ!!』と
「ま、ざっとこんなもんですかな」
比和はフフンと鼻高々にしてドヤ顔を決めていた。
「まさか勝てるなんてな……とりあえず『おめでとう』……でいいのか?」
驚き半分呆れ半分といった感じで真中は比和のことを見直したが、その直後に『DA
「じゃぁ次は私の番ッスね」
待ってましたと言わんばかりに、少女は比和と同様にキャラクター選択をしていく。
「げ、あの子おっさんで来るのかぁ……」
初めに少女が選択したのは、白髪と豊かな
「手加減なしでいくッスよ!!」
さっきと同じように試合開始のテロップが流れ、殴り殴られの場面が続くが、しばらくすると比和の方が押し始める。
「んーそう来るか……ならこうだな――」
ただ、時間が進むにつれて比和の操作するキャラクターの方が多く手数を出すようになり、勝利を手にしていた。
「……っ!! 次っす!!」
初めは
それでも、少女は諦める気がなさそうだ。
「まだ……まだ終わってないッス!!」
ただ、これも一歩足らずというところで敗北し、その後には紙袋を被った医者(?)のようなキャラクターを選択して比和に挑むも、結局のところ少女は一試合どころか一勝すらできなかった。
「なんで……なんで勝てないんスか……」
悔しさに顔を歪める少女だが、三度目の『YOU LOSE』という画面が見えてから、しばらく席を立つ様子はない。
「弱くはないけど読みと差し込みがまだ甘いかなぁ……まぁ、キャラコンの基礎はできてるみたいだし、後は実戦で読み合いの感覚をつかめば何とかなるでしょ」
「……そうッスか……」
「じゃぁ……行くけど良いか?」
「……ッス」
比和からの、肩を落とす少女だったがそれ以上は何も言わなかった。必死で何かをこらえているのか、肩を震わせながら少女はコクリとうなずくのを確認して、真中と比和はその場を後にした。
「……良いのかよ、あれで」
店を出るなり、真中は比和に問いかけた。
「良いも悪いも、オレが提案した内容をあの子も納得して決めたことだぜ?」
少し冷たく聞こえるが、比和の言っていることは正しい。ただ、まさか少女が泣くことになると、真中は想像していなかった。
「きっとあの子もGGなら勝てると思ったんだろうよ。実際、あの子は強かったぜ? 多分、オレ達より先にやってた人なら彼女でも勝てたと思うよ」
「マジか……」
「マジだ。ただ多分あの子は――」
「あの子は?」
「……いや、これは推測じゃなくて、オレの妄想だからやめておくよ」
そう言って、比和は話を中断した。
「何だよそれ」
一人だけ分かっているかのような物言いに、真中はある種の疎外感を感じたが、この話はきっと比和と少女にだけ通じれば良いのだろう。
そう思って真中は気持ちを切り替え、比和と二人でさっき来たアニマイトへ入店したのだが、本棚へ向かうと、ある違和感に気がついた。
「なぁハジメ、オレは夢でも見てるのかな……?」
「いや、残念だけど夢じゃねぇよ?」
そう、月刊誌のコーナーの陳列が、ちょうど空いたスペースを埋めるように変えられていた。
「マジかよ……」
「……店員さんに聞いてみるか?」
「いや、いい……明日隣町の本屋に行くなり、電子版で見るなりするよ……」
比和が落胆した表情を浮かべ、肩を落とした。せっかく一悶着あったとはいえ障害を解決してから来たのに、目当てのものが無くなっていたのだから、その落ち込み具合は想像に難くない。
トボトボと帰路につく比和の後ろ姿は、夕日に照らされていることもあってか、
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