#8 デジタルに囚われた朝 〜美咲の日常〜
朝の光が、窓から差し込んでいる。 私はゆっくりと目を開け、天井を見つめた。日常の始まりを告げるアラーム音がスマホから響く。手を伸ばしてスマホを掴み、通知をチェックするのが私の日課だった。スマートグラスをかければ、同じようにチェックできるのに、どうしても私はスマホを触らずにはいられなかった——。
「今日も、また始まるのか……」とため息をつきながら、ベッドから起き上がった。
スマホを片手にキッチンに向かう。朝の食卓は、見慣れた光景だった。父はスマホでニュースを見ていて、母は、SNSに夢中だ。
「おはよう、お父さん、お母さん」
いつものように挨拶する。しかし、返事はない。父も母も、画面に集中していて、私の声は届いていないようだ。私も、スマホの画面に視線を落とす。
「私のことなんて、見向きもしないんだ……」
心の中で呟いた。
両親はスマホに夢中で、私に対して何の関心も示さない。食卓に並んだトーストとヨーグルトを無意識に口に運びながら、スマホをいじり続ける。
「デジタルドラッグって、こういうことなのかな……」
スマホを手放すことができない自分に気づき、苦笑した。依存しているのは自分だけではない。両親も同じだ。いや、むしろ世の中全てが、スマホに支配されているように見えた。
父は朝食を食べ終えると、書斎へと消えていく。書斎の扉の向こうからは、スマートグラスをかけた父の姿と、同僚らしき人との会話が微かに聞こえる。父は仮想現実の中で働くのが日常だ。
朝食を終え、自分の部屋に戻った。スマートグラスを取り出してかけると、目の前に広がる世界が一変する。仮想教室の中に、AI先生の姿が映し出される。
「おはようございます! 皆さん、今日も頑張りましょう」
AI先生の声が響き渡る。仮想教室には、クラスメイトが集まっていた。私は教室の隅に座り、授業に集中しようと努力する。
「昔は『紙幣』という紙切れが世界を支配していたらしい」
私が生まれた時代から『紙幣』というものは存在しなかった。お金を奪う強盗は姿を消し、その代わりにスマホを奪う強盗が現れるようになった。お金がなくなったことで、犯罪が減るどころか、むしろ新たな形で増えてしまったのだ。
「誰がこんな世界を作ったのだろう」
私はスマホを見つめながら思った。スマートグラスが普及した今でも、スマホは生活の一部として消え去ることはなかった。ベルトには、常にスマホがポーチに収められていた。それはまるで拳銃のように、いつでも取り出せるようにしている。
「この悪魔のデバイス、スマホが私たちの人生を支配している」
私は呟いた。スマホに依存し、スマホに支配される自分。
私の人生は、このデジタルの牢獄から抜け出せるのだろうか。
そんな疑問が渦巻いていた——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます