#5 絢音とブルーハーツ 〜音楽は永遠に〜

 2050年の日本、日常の中でスマホが生活の中心にあるこの世界で、私はどこか懐かしさを感じながら毎日を過ごしていた。私は生まれた時からスマホから流れるデジタル音楽や仮想現実のエンターテインメントに囲まれて育った。しかし、心の中には、それとは少し異なる願望が秘められていた。


「おばあちゃんが好きだった曲があるの」

 放課後の教室で親友のエルビアに言った。

 エルビアは目を輝かせて「どんな曲?」と興味津々に聞き返した。

THE BLUEブルー HEARTSハーツっていうバンドの『リンダ リンダ』って曲だよ。今から六十年以上前に流行ったんだ」

 エルビアは少し首をかしげた。

「THE BLUE HEARTS? そんな名前、初めて聞いたな」

「おばあちゃんの思い出の曲なんだ……」

 スマホを取り出し、曲を検索した。「リンダ リンダ」という文字を入力し、再生ボタンを押す。教室に鳴り響く懐かしいメロディーと、力強い歌声。目を閉じて、その音楽に耳を傾けた。


 THE BLUE HEARTSは、1980年代後半から1990年代初頭にかけて日本で活動していた伝説的なロックバンドだ。彼らの音楽は、若者たちの心を掴み、時代を超えて愛され続けている。特に『リンダ リンダ』は、そのエネルギッシュなリズムと、シンプルでありながらも心に響く歌詞で多くの人々を魅了した。

「リンダ リンダ」の歌詞は、愛と自由を謳うもので、心に響くメロディーが特徴だ。何度も繰り返される「リンダ リンダ」のフレーズは、聞く人の心を解放し、どこか遠い場所へと連れて行ってくれるような気がする。


「いい曲だね」

 エルビアは目を輝かせて言った。

 私は微笑みながら頷いた。

「電子音楽もいいけど、こういう生の音楽には何か特別な力がある気がするの。音楽って世代を超えるんだね。いいものはずっと残り続けるんだ」

「うん、確かにそうだね」

 エルビアも同意した。

「絢音も、こんな素敵な曲を作りたいって思う?」

「そうだね。私も何世代にも渡って聴かれる、そんな曲を作りたいな」

「そっか……。もうおばあちゃんには会えないんだよね」

 私は少し悲しそうな表情を浮かべた。

「亡くなったから……。今は『故人AI』っていうのがあって、死者をデジタルで復活させて、いつでも会えるけど、それって本物じゃないんだよね。偽物だって分かってても、時々会いたくなるけど、それが本当のおばあちゃんじゃないことを知ってるから、余計に寂しいんだ」

 エルビアは私の肩に手を置いた。

「絢音、おばあちゃんは、いつも絢音の心の中にいるよ。絢音が、おばあちゃんのことを思い出すたびに、おばあちゃん、喜んでいると思う」

「うん」

 私は涙をこらえながら頷いた。

「一度でいいから、生きているうちにライブに行きたかったな。おばあちゃんと一緒に、音楽を聴きながら楽しんでみたかった——」


 その夜、私は一人で部屋にこもり、ギターを抱えながら作曲を始めた。涙を流しながらも、その手は力強く弦を弾き続けた。心の中には、おばあちゃんの思い出と、音楽への情熱が溢れていた。

「音楽は、いつか誰かの心に届く。おばあちゃんが教えてくれた大切なことを、私も次の世代に伝えたい」

 そう決意し、ギターの音色に想いを込めた。

 部屋の壁には、おばあちゃんとの思い出の写真が飾られていた。その写真には、笑顔でギターを弾くおばあちゃんの姿が映っている。私はその写真を見つめながら、心の中でそっと呟いた。

「おばあちゃん、ありがとう。私はこれからも、おばあちゃんが教えてくれた音楽の力を信じて、頑張るからね」


 次の世代へと続く音楽のバトン。それを受け取り、新しい未来を切り開くために、今この瞬間を生きていた。

 私の音楽は、やがて時を超えて、多くの人々の心に響くことを願いながら——。

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