#4 ポチとAIドッグトレーナー
スマホの画面に夢中な人々で溢れる都会の街角。
みんながスマホに没頭しているのを横目に、自分も知らず知らずのうちに同じようになっていないかと、ふと立ち止まる——。
『リアル登校』が終わり、再び私は、スマホの中に逃げ込んでいた。
最近、ポチの様子がおかしい。数ヶ月前、OSをアップデートした直後は、私の声に即座に反応し、忠実に命令を聞いていたのに、最近では命令を無視したり、まるで反抗期のように問題行動を繰り返すのだ。
家に着くと、ドアを閉めた瞬間、ポチが駆け寄ってきた。元気にしっぽを振りながら私の周りをぐるぐる回っている。でも、私はそんなポチに軽く笑いかけるだけで、すぐにスマホに目を落とした。
リビングに入ると、母が夕食の支度をしている。今日のメニューは私の好きなカレーライスだ。私はカバンをソファに投げ出し、テーブルに座った。
「お帰り、絢音。今日はどうだった?」
母が私に問いかけるが、私は適当に「うん、普通だった」と答えながらスマホをいじっている。母が少し眉をひそめたのに気づいたけど、特に気にしなかった。
「今朝、あんなに楽しみにしてたのに、なんだか元気がないみたいだけど……。何かあったの?」
母は心配そうに問いかける。
「別に、なんでもないよ。リアルのことはもういいから」
私はそう言って、手早く夕食を済ませた。食器を片付け、すぐに自室に向かった。ポチがついてきたが、私はポチを部屋の外に出してドアを閉めた。
「ふぅ……」
服を脱ぎ捨ててバスルームに向かい、シャワーを浴びる。温かいお湯が体を包み込み、一日の疲れが少しずつほぐれていく。シャワーの音が心地よく響き、リラックスした気分になる。
シャワーから上がり、髪をタオルで拭きながら鏡の前に立つ。顔を拭き、スキンケアを手早く済ませた後、スマートグラスを手に取る。
「よし、これで準備完了」
ベッドに腰掛け、スマートグラスを慎重に装着する。視界に広がる仮想世界のログイン画面。私は指で軽くタップし、ログインプロセスを開始する。画面が切り替わり、メタバースの入り口が現れた。
「よし、遊びに行くか!」
遊びに行くと言っても、友達の家に直接行くわけではない。私の目的地は、最近、話題のゲームの中。ここは、どんな場所にも瞬時にアクセスできる仮想空間(メタバース)だ。
私が選んだのは、仮想空間に広がるカフェ! カフェには、未来的なインテリアが並び、リアルでは見たことのない豪華な空間が広がっている。ここで、エルビアと待ち合わせているのだ。
「絢音! 今日もバーチャルドリンク楽しんでる?」
エルビアのアバターは、まるで彼女の個性がそのまま具現化されたかのように、カラフルな髪型と未来的な服装で現れた。私はバーチャルテーブルに座り、エルビアと一緒にバーチャルドリンクを楽しむことにした。
「うん! いいね、ここにいるとリラックスできるよ……」
やっぱり、私は『リアル』よりも、この場所が落ち着くな——。
数分後——。
「——最近、ポチが全然言うことを聞かなくて」
バーチャルドリンクを飲みながら、私はポチの様子を話した。エルビアは親身に耳を傾け、しばらく考え込んでから、提案をした。
「それなら、AIドッグトレーナーを試してみるのはどう? 最新の技術で犬のしつけを教えてくれるんだって!」
エルビアが嬉しそうに見せてくれたのは、メタバース内で表示される、ホログラムだった。そこには、最新のAIドッグトレーナーの詳細が描かれていた。
「AIドッグトレーナー? 本当に効果あるのかな……?」
「半信半疑でも、試してみる価値はあるよ。ね、今度の休み。行ってみたら!」
エルビアの提案に少し疑念を抱きながらも、私は興味を引かれて、ポチを連れてAIドッグトレーナーの施設に行くことにした。仮想空間での会話が終わると、私はスマートグラスを外し、現実の世界に戻った。
数日後——。
現実世界に戻ると、私はポチを連れて、エルビアが教えてくれたAIドッグトレーナーの施設へ向かった。そこには、未来的なデザインの建物が立ち並び、中には多くのAIペットが集まっていた。
受付で事情を説明すると、まるで人間のように自然な動きと表情を持つAIロボットが迎えてくれた。
「こんにちは、神崎絢音さん。本日はどうされましたか?」
微笑みながら私に話しかけた。その表情は人間らしく、まるで本物のトレーナーと話しているかのようだった。
「えっと……。ポチが最近、言うことを全然聞かなくて……。その……。友達がここで相談できるって教えてくれて……。あの……。ちょっと緊張してるんですけど、大丈夫ですか?」
「もちろん、大丈夫ですよ。まずはリラックスしてください。ポチのこと、詳しく教えてもらえますか?」
「はい……。ポチは私のAI犬型ロボットなんですけど、最近は命令を無視したり、問題行動ばかりなんです」
「なるほど、それは心配ですね。さっそく、ポチを見せてくれますか?」
「わかりました。ポチ、こっちに来て」
数分後——。
AIドッグトレーナーは、ポチの動きを一通りチェックし、仮想空間のデータ解析システムを通じて分析を始めた。そして、ポチに対していくつかのコマンドを試し、問題行動の原因を探った。
「なるほど……。ポチは、少しストレスが溜まっているようですね。最近、たくさん遊んであげていますか?」
「ええと……。スマホに夢中で、あまりポチと遊べていなかったかも……」
「なるほど。それなら、もっと一緒に遊んであげることが必要です。まずは、基本的なしつけの方法を教えますね」
AIドッグトレーナーは、私にAIロボットの扱い方を丁寧に教えてくれた。基本的なコマンドを教えながら、褒めることでポチが正しい行動を取るように導く。
「こんな風に、ポチがうまく命令に従ったら、すぐに褒めてあげてください」
AIドッグトレーナーの言葉に従って、私はポチに「よし、偉いね!」と声をかけながら頭を撫でた。ポチの目がキラキラと輝き、しっぽを振りながら嬉しそうに応えてくれる。
最初はうまくいかなかったが、何度も繰り返すうちに、ポチは少しずつ命令に従うようになってきた。今まで反抗期のようだったポチが、見違えるほどお利口になっていくのが分かる。AIドッグトレーナーの指導は確かに効果があった。
「ありがとう、AIドッグトレーナーさん! 本当に助かりました!」
「どういたしまして。お役に立てて何よりです! これからもポチとたくさんの楽しい時間を過ごしてくださいね」
満足そうに微笑んだ。いつの間にか、AIは人間を超える存在になっていた。
私はポチと一緒にトレーニングを終え、街に戻った。道中、ポチと楽しそうに散歩する自分に気づき、ふとスマホを見つめる時間が少なくなっていることに驚いた。
「ポチ、ありがとね。ポチのおかげで私も変われたよ——」
ポチは嬉しそうに吠え、私の顔を見上げた。その瞬間、何かが心の中で変わったような気がした。
その夜、再びスマートグラスを装着し、メタバースのカフェでエルビアと会話を楽しんだ。エルビアは私がポチと過ごした時間の話を聞いて、微笑んだ。
「絢音、それって素晴らしいことだよ。リアルの世界も、悪くないでしょ?」
「うん、そうかもね……」
エルビアがいたずらっぽく笑いながら言った。
「実は、もっと面白いことを見つけたんだ。次に会う時、教えてあげるね!」
「え……。ああ、ちょっと待っ……」
エルビアは、ログアウトした。急にどうしたんだ……?
「次に会うときか……」
私は次のエピソードが待ち遠しくてたまらなかった——。
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