#2 2050年の世界で——。
「またみんな、スマホばっかりいじってる……」
私は、溜息をつきながら、目の前を行き交う人々を眺めていた。
まるで現実逃避するように、みんな画面に夢中になっている。
その様子は、直視するには痛々しい光景だった。
「……でも、私も同じなんだよね」
私は、手に持ったスマホを見つめながら呟いた。自分のSNSアカウントに、新しく撮った弾き語りの動画をアップロードしたばかりだった。ほんの少しでも誰かに認めてもらいたくて、あわよくば有名になれたらいいな、なんて思いながら。
「投稿完了っと……」
画面には、動画がアップロードされたという通知が表示されていた。
そして数分もしないうちに、いいね!とコメントが早速つき始めた。
「やった、反応が来た!」と小さくガッツポーズをする。しかし、その反応に心が満たされるのは一瞬だけだった。すぐにまた、もっと多くの反応が欲しいという欲望が湧いてくる。
「何やってんだか……。私はSNSで承認欲求を満たしているんだけなんだ……。はあ……。辞めたくてもやめられないよ」
そんな思いが頭をよぎる。
現代は、スマホを中心に経済が回っていた——。
街を見渡すと、どこもかしこもスマホだらけだ。広告も、買い物も、コミュニケーションも、みんなスマホで行われている。まるで、この小さなデバイスが、世界の中心であるかのように。
ふと、自分もその一部であることに気づいて、少し苦笑いを浮かべた。
「まあ、そういう時代なんだよね」
そうだ、みんな、スマホ人間だった——。
今日は珍しく、クラスメイトと遊ぶ約束をしていた——。
スマートグラスをかけ、街を歩いていた。空には配達用のドローンが静かに飛び交い、地上にはロボタクシーが行き来している。スマートグラスには目的地への案内が浮かび、私をナビゲートしてくれる。周囲のデジタル看板が色とりどりの広告を流していて、デジタルの世界は眩いくらいにキラキラしている。現実は殺風景なのに……。
「目的地は右側です……。目的地に到着しました。案内を終了します」
約束した時刻の5分前に到着した。するとスマホが軽く振動し、メッセージを知らせてくれた。エルビアからだ!
「絢音、遅くなってごめん! もうすぐ着くよ!」
エルビアは白人。外国人で、私のクラスメイトだ。彼女とは普段、スマホの翻訳アプリを使って会話をしている。今では、ほとんど違和感もなく、普通に話せるようになった。言語の壁はなくなった——。企業努力がすごいなと感心していた。このアプリがないと友達になれないことを痛感した。
ショッピングモールの前で待ち合わせをしていた私は、彼女の姿を見つけて手を振った。彼女は、約束の時間ぴったりに到着した。
「エルビア〜! 半年ぶりだね! リアルで会えてうれしい!」
私は彼女の方へ走っていき、抱きしめた。
「うわ! 久しぶり絢音!」
エルビアは、戸惑いと驚きを隠せないまま、話を続けた。
「うん、そうだね! オンラインじゃなくて、直接会うのは、やっぱりいいよね。最近どうしてたの?」エルビアは微笑んで私に尋ねた。
「忙しかったけど、最近は新しいスマートグラスを試してたり、SNSでフォロワーと交流したりしてたよ。ほらこれ!」
私はかけていたスマートグラスをエルビアに渡し、見せた。
「おお! すごいね。これ最新のやつじゃない! 高くなかった?」
「えへへ、バイト代全てなくなっちゃった。でもすごいよこのグラス。めちゃくちゃ軽くて、世界が変わるよ!」
テンション爆上がりだ。
「エルビアはどうなの? 最近?」
「そうだな……。ああ、最近ね、日本の文化にどっぷり浸かってるよ。特に料理が好きで、日本のレシピを試してるんだ。絢音、今度一緒に料理でも作らない?」
エルビアは目を輝かせて言った。
「おお! いいね! エルビアの作る日本食……」
唾を飲み込んだ。エルビアは親友だ。一緒にいて、話題が尽きない。
数分後——。
「エルビア! 今日はショッピングモールで服を見たり、お土産を買ったりしようと思ってるんだ。あそこに最新の服があるお店があるから、一緒に行こう!」
メガネ型のスマートグラスで、地図を見ながらショッピングモールの中を進んでいく。グラスには立体的な地図が映し出され、目的地までナビゲートしてくれる。通り過ぎる人々もみんな、似たようなスマートグラスをかけていて、まるで未来の映画のワンシーンのようだ。2050年の世界は、これが日常茶飯事だ。
「絢音、これすごいね! まるでSF映画みたいだ」
エルビアが興奮気味に言った。
「そうだね。昔はスマホを見ながら迷わないように歩いてたけど、今は手ぶらで目的地まで行けるんだ」
私はエルビアに説明しながら、感動している彼女を見て微笑んだ。
ショッピングモールに入ると、目の前にホログラムの広告が浮かんでいた。広告には最新のファッションやガジェットが映し出され、私たちを誘っていた。エルビアと一緒に、服屋さんへと足を運んだ。
「絢音、見て! この服、ホログラムでデザインを変えられるんだね」
エルビアが興奮しながら、試着室のホログラム服を指さした。
「うん。これが未来のファッションだよ。アプリで好きなデザインを選ぶと、すぐに服の柄や色が変わるんだ。毎日違う服を着てるみたいで楽しいよね!」
私はホログラム服を実際に試着して、エルビアに見せてあげた。
ショッピングを満喫した後、私たちは夕方になってロボタクシーを呼ぶことにした。スマホでタクシーを呼び出すと、目の前に四角いボックス型のタクシーが静かに停まった。ドアが自動で開き、私たちは中に乗り込んだ。
「絢音、このタクシー、本当に運転手がいないんだね」
エルビアは驚いた様子でタクシーの中を見回していた。
「ああ、そっか。エルビアって初めてだっけ? そうだよ。行き先をスマホで指定するだけで、自動で連れて行ってくれるんだ。昔のタクシーとは全然違うでしょ?」
私はエルビアに笑顔で答えた。
タクシーは静かにエルビアの自宅へ向かい、彼女は「じゃあね、絢音! 今日はありがとう。すごく楽しかったよ」と、感謝の言葉を残して降りていった。
「またね、エルビア。私も楽しかったよ!」
手を振って彼女を見送り、自宅へ向かった。
自宅に到着すると、玄関で靴を脱ぎながら「ただいま」と声をかけた。
リビングからお母さんの声が聞こえる。
「おかえり、絢音! 夕飯できてるわよ……」
「はーい。あとで食べるね」
私は軽く返事をして、リビングに入ると、ポチが元気に駆け寄ってきた。
「絢音!おかえり!」
ポチは嬉しそうに挨拶してくれる。
「ただいま、ポチ」
私はポチの頭を撫でて、自分の部屋へ向かった。
自分の部屋に入ると、今日一日の出来事を振り返りながら、スマホで写真や動画を整理した。エルビアと一緒に撮った写真をSNSにアップロードすると、すぐに友達から「いいね」やコメントがたくさん届いた。
「今日はありがとう、絢音! また一緒に遊ぼうね」
メッセージアプリにエルビアからのメッセージが届いた。
「こちらこそ、楽しかったよ。またね!」
私は笑顔で返信し、ベッドに横になりながら、スマホをいじっていた。
と、まあ、こんな感じで——。
2050年の世界では、私たちの生活は技術によって大きく変わっていた。
ネットフリックスのドラマは視聴者のデータに基づいてリアルタイムでストーリーが変わり、友達と「今日はどんな結末だった?」と話すのが日常になった。
ロボタクシーが普及して、満員電車は過去のものとなった。
ホテルも無人受付でスマホ一つで理想の部屋にカスタマイズできる。
学校の担任は、AI先生で、VRゴーグルを使った授業が当たり前。
すべてのデバイスがクラウドで連携し、家の中ではAIが食材の管理や料理のサポートをしてくれている。食材が足りなくなると、冷蔵庫が自動で注文し、ドローンが家まで届けてくれる。
服はホログラムで瞬時にデザインを変更でき、部屋の模様替えもホログラムで簡単に行える。2030年に実現した「ニューラリンク」によって、考えるだけで家電を操作できるようになり、ジェスチャーでテレビの音量を調整することも可能になった。
この世界を生きる私たちの日常は、便利で楽しいことがいっぱいだ。技術の進化が生活を一変させ、未来はより豊かで楽しいものになるはずだと信じていた——。
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