第4章
第19話
「わ、わたし、
は、離されたくないもんっ!」
……。
はは。
あは、は。
なんだよ、それ。
ほんと、手を離させてくれないな。
「柚。」
「う、うん。」
あぁ、柚の顔が、近い。
こんなの、絶対、男らしくないのに。
「3組の転校生に、
一目ぼれしたんじゃ?」
「……
?」
……は?
「ほら、こないだ、
柚が、廊下で、ぶつかって転んだ時。
手を差し伸べた、イケメンが、いて」
痛、い。
「柚、
目が、
とろんと、してたけど。」
激痛が、吐き気が、身体中を襲い続ける。
反射的に溢れそうになる涙を堪えるのが精一杯で。
(私に、近づかないで。)
……っ。
柚の身体の温もりと吐息の暖かさに縋りながら、
浸食する悪寒と必死に戦い続ける。
柚は、瞳をくるくると廻しながら考えてる。
考えて、る??
あ。
顔、真っ赤になった。
……やっぱり
「ちがうっ!」
え。
「あ、あの、
あれは、その、
わたし、転んじゃった時、
耕平が、見えたからっ。」
……
「だ、だって、
駆け寄ってきてくれる耕平が、
すっごく、かっこよくてっ。」
……
「なのに、わたし、転んじゃって
あの、その、
は、は、は、
恥ずかしくってっ!」
えぇ……。
え。
ってことは。
「3組の転校生のことは?」
……
うわ。
真顔で首、捻ってる。
完璧な演技ができる夕空さんなら疑いの余地が出るが、
なにしろ、柚だ。
あ。
ぽんっ、と気づいた顔になった。
「えっと、みんなが話してた人、かな。
隣のクラスに、すごく顔のいい人が来た、とか。」
……うん。
その話、だけど。
「へー、って。」
は。
「だって、わたしには、
関係ないもん。」
……。
「夕空ちゃんとか、
恭子ちゃんとかの話かなって。」
……それは、違う。
「柚。」
「う、うん。」
……
もし、柚が、
高槻に、告白されたなら、
柚は、
いや、この質問は、
いくらなんでもみじめすぎる。
第一、卑怯だ。
あの表情は、高槻に向けられたものではなかった。
それを確認できただけで。
……
身体が、熱い。
腕の中に、ずっと、柚がいて、
息がかかる至近距離にいるから。
朝なのに、
背中に、首筋に、
汗が、流れてる。
奪い去りたい。
唇を、貪りたい。
彼女なら。
彼女に、できるのなら。
……
「柚。」
「う、うんっ。」
いまな
っ!?
「!」
……ふぅ。
高速で走ってくるカートが
柚の足を踏むところだった。
新幹線の駅ホームはこれだから。
新幹線の、
駅の、ホーム?
……
う、わ。
「お、降りようか。」
周りのサラリーマンと海外旅行客が、
すっごくこっち見てるし。
「う、うんっ……。」
*
「……ニュース、
大ニュース。」
は?
すごく不機嫌そうな顔してるけど。
「大船夕空が、高槻の野郎と、
仲睦まじくデートしてるの見た奴が、複数いるんだと。」
……え???
あ、あぁ。
「ったく。
大船の恋人って、あいつだったのかよ。
大船も結局、顔なのかよーっ。」
……。
「これで大船とワンチャンあるっていう連中が、
一斉に下にいってる。」
下、って。
え、これ。
「ただ、三鷹と土浦んとこは、
やべぇ奴がブロックしちまってるけどな。」
やべぇ奴?
「メスゴリラ。」
メスゴリラ??
「お前な。
2組の
現代が産んだ石器時代のアマゾネス。」
(やったぜ
メスゴリラ落とした)
あ、あぁ。
読んで字のごとくだったのか。なんだそりゃ。
「だから、橘んトコ、告白ラッシュ。」
う、わ。
そういうこと、か。
……
やっぱり、めんどくさくなったのかな、夕空さん。
……ん?
でも、新居田さんなる人にブロックされてるなら、
夕空さんもブロック対象になるはずだし。
……
にしても、
よりによって、
高槻、駿か。
ただ。
(高槻君、
向こうの高校でなんかやらかしたんだって。)
このハナシを聞いているせいで、
素直にショックを受けられない。
まぁ、ショックなんて元々ないんだけど。
……
なに考えてるんだろうな、夕空さん。
なにしろ、智謀家だから。
学年一の美少女なのに。
*
……
ふぅ。
やっと、終わった。
通帳が再発行できるATM、
この駅まで来ないとないんだよな。
支店が潰れちゃったもんだから。
正直、振込系はぜんぶ引き落としにして欲しいけど。
街は今日も賑やかだけど、一人でいてもなぁ。
ほんとは柚と気兼ねなく来て見たかったりするけど、
ふつうの通学の範囲を超え
……あれ、は。
橘さん?
と
……
高槻、か……。
……
確か、
二人とも容姿が抜きんでているわけだから、
お互いのことを、認知してはいるだろうな。
ん?
なんだ?
友好的とはとても言い難い空気だぞ。
……
いや、駅への通り道なだけだから。
別に、わざと聞こうと思ってるわけじゃ
「……わざと、やらせたの?」
「言いがかりも甚だしいね。
きみも知っての通り、
彼女とは子どもの頃から同じスクールだよ。
そんなことするはずないだろう。」
「……そう。
てっきり、口封じに来たのかと。」
「妄想逞しすぎる話だね。
そんな理由で高校を選ぶはずがないだろう。
もういいかな、失礼するよ。」
「どうぞご自由に。
でも、次に夕空に手を出したら、
容赦しないわ。」
「大概にしてくれないか。
学年一の美少女さん。」
……
どういうことだ?
*
……
あぁ。
<第1位
橘かなめ(3組) 33pts>
ランキング、更新されてたんだ。
それなら、
(学年一の美少女さん)
あれは、
……まぁ、高槻が相手なら、
野郎共も引っ込まざるを得ないわけだしな。
交際発表した瞬間に人気が暴落する男性アイドルみたいなものか。
……
っていうか、大接戦とはいえ、
柚が地味に2位浮上してるじゃないか。
クラス外では危険しかないな。
……
あの、時。
(は、離されたくないもんっ。)
(だって、わたしには、
関係ないもん。)
……
告白、すべきだった。
いや。
違う。
すべきでは、なかったんだ。
(てっきり、口封じに来たのかと。)
(次に夕空に手を出したら、
容赦しないわ。)
夕空さんは、高槻との間に、
なにか、トラブルを抱えている。
いまの夕空さんでは、柚を護れないかもしれない。
そして、クラスの違う僕が、
24時間張り付けるわけではない以上、
柚の身に悪しきことが起こらないようにすべきだろう。
……
別に、耐えられし、
堪えるべき。
もともと、
人に見えないところで手を繋いでいただけ。
……
なん、だけど。
(……はなさ、ないっ。)
ほしい。
もっとつよく抱きしめたい。
……
ただの、欲望に過ぎない。
ぶつけてはいけないタイプの。
……
そう、だ。
ひとつ、ひとつ、
片付けていくならば。
*
<たまたま
知ってる人がいただけ>
……はは。
ほんと、合法なのかな。
高槻駿の母親は、
元劇団女優の水島月渚。本名は高槻奈々子。
それほど売れた人ではないらしいけど、
所属劇団では看板女優だったらしい。
一夜の過ちの類だった上に、
高槻を産んだ後、亡くなってる。
高槻駿の父親は、小林宇三。
元プロテニスプレイヤー。
一時は世界ランクに入ったこともあるらしい。
<水島月渚の宣材>
う、わ。
これは。
美しい。めちゃくちゃ整ってる。
……なるほど。
水島月渚を早世に追い込んだ小林宇三氏を、
恨みに思ってる人がいるってことか。
と、なると
……
……
……
………
あ。
<これ、かな>
テニススクールの特別コーチに、
小林宇三の顔写真と名前がある。
随分派手に出してる。元世界ランカーだから当然か。
<(驚愕するブタのスタンプ)>
は?
<夕空と、ホテルから出てきたの、
たぶん、コイツ>
……
はぁぁぁ???
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