第17話

 

 

  「だ、だめぇっ!」

 

 

 は?

 

 え。


 

 「ゆ、柚?」



 うわ。

 なんか、純白レザーで、

 ふわふわ帽子被って、モコモコした恰好してる。

 渋谷っぽい?

 

 「だ、だって、

  わたしだって、話しかけたいのに、

  放課後まで話しかけちゃだめって、

  夕空ちゃんに言われてるもんっ。」

 

 「え?

  って、

  

  あ、貴方って、

  まさか、土浦柚、ちゃん?」

 

 「……

  ひっ!?」

 

 ひっ、て。

 

 「ど、どうしたの、柚。」

 

 「だ、だって。

  だって……っ。」

 

 あ、まずい。

 

 「!」

 

 「捕まえた。

  また、走っていきそうだったから。」

 

 「!?」

 

 「……

  ただの知り合いってわけじゃ、ないみたいね。」

 

 あれ。

 これ、結構、まずい感じ?

 

*

 

 「そう。」

 

 ……なんで、こんなことに。

 

 「つまり、ネットゲーム上の友達が、

  オフ友になったってこと?」

 

 ……

 

 ちょっと違うんだけど、柚と僕の関係は、

 つづめてしまえば、そうなってしまう。

 

 「……。」

 

 柚も、微妙そうな顔をしてるな。

 なんて言っていいかわからないって感じの。

 

 「……

  なるほど、ね。」

 

 ん?

 

 「ううん。

  夕空が、何がしたいのか、

  ちょっと、分かった気がする。」

 

 夕空さんが?

 

 「まぁね。

 

  あーあ。

  いい盾が見つかったかと思ったのに。」

 

 ??

 

 「ううん。

  

  耕平君。

  ちょっと、柚ちゃん、借りていい?」

 

 え。

 

 「っ!」

 

*

 

 <かなめ、かぁ……っ>

 

 このリアクション、

 どう取っていいのやら。

 

 <っていうか、

  かなめのって、

  耕平君のことだったのかよっ>

 

 は?

 

 <うわ

  なんでもないなんでもない

  

  あー

  わかった

  ちょっと考える>

 

 なにをどう考えるのか良く分からないけど。

 そういえば。

 

 <夕空さん

  さっき、渋谷の近くにいた?>

 

 <え

  あたし?>

  

 ……違ったか。

 こりゃ、別人かな。

 

 あ。

 

 <柚、戻って来た>

 

 <おけおけ>

 

 「……。」

 

 「柚?」

 

 「っ。」

 

 ……。

 

 「虐められたりしたの?」

 

 「!?

  ち、違う、違う。

  そうじゃ、ないの。」

 

 ……?

 

 「その。

  ……

  

  言えない、の。」

 

 ……

 柚が、僕に、

 隠し事を、してる?

 

 「ち、違うの。

  あの、その。

  ……なんでもないっ。」

  

 そ、そう?

 って、あれ?

 

 「かなめさんは?」

 

 「……

  あそこ。」

 

 ん?

 

 あぁ。

 

 「別の友達がいたんだ。」

 

 「そう、みたい。」

 

 ……。

 

 「柚。」

 

 「っ!?」

 

 なに怯えた顔してるんだ?

 それより、

 

 「その恰好、紗理奈さん?」


 モコモコした白い帽子が、

 どうにも気になって。

 

 「あ。

 

  ……うん。

  そうだよ。

  

  渋谷行くなら、これ着てけって。」

 

 ……絶対、遊んでるだけだな。

 

 「……

  紗理奈ちゃん、凄かった。

  モデルさん、みんな、綺麗なのに、

  紗理奈ちゃん、一番カッコよかった。」

 

 ほー。

 それは凄いな。

 

 「……

  みんな、すごいな。

  わたし、なんにもできない。」

 

 「そんなことないよ。」

 

 「そんなこと」

 

 「ない。

  柚はね、そこにいてくれるだけで、

  みんなが、幸せになる。」

 

 夕空さんも、紗理奈さんもそうだろうし、

 なにより、僕が。

 

 「?

 

  ……っ。」

 

 ん?

 

 「……そ、そんな、

  じぃっと見られると、

  は、は、は、恥ずかしくてっ。」

 

 えぇ?

 いつもそうしてるのに。


*


 僕らの最寄り駅のホームは、

 この時間になると、少し閑散としている。

 

 ……

 柚の恰好、浮くな。

 渋谷にぴったりだったけど、ただの住宅街だと。

 っていうか、ギャル系モコモコ着てると、

 柚には見えないな。

 

 「送っていこうか?」

 

 さすがにちょっと暗いから。

 

 「……ううん。

  いい。」

 

 そっか。


 「じゃぁ、また来週。」


 高架下、改札の北と南が繋がっている。

 僕は南、柚は北に、

 

 って、

 

 「柚?」

 

 「……

  その。

  

  こ、耕平っっ。」

 

 ん?

 なんか、目、潤んでるけど。

 

 「……っ!?

 

  な、なんでもないのっ。

  おやすみなさいっ!」

 

 ……

 なんだったんだ?


*


 ふぅ……

 お風呂、生き返るな。

 

 僕も、疲れてたのかな。

 中学のときは、夜の街に出たことなんてなかったから。

 

 (ね、耕平君。

  学校で見かけたら、話しかけてもいい?)

 

 橘かなめさん、か。

 

 ……ん?

 

 あ。

 

 あっ。

 

 <第2位

  橘かなめ(3組) 29pts>


 ……

 

 やっぱり、だ。

 どっかで見たことあると思ったら。

 

 綺麗な人、だったな。

 夕空さん元気系とも、小動物系とも、紗理奈さんダウナーとも違うタイプだ。

 

 ……

 一見清楚な優等生、

 一番やばいやつじゃないか。

 

 夕空さんと、

 中学の時、同級生だったらしいけど。

 

 (夕空の怪我の理由、知ってる?)

 

 (あはは、夕空、そう言ってるんだ。

  テニス肘って、よっぽど重症じゃない限り、

  治るものだよ。)

 

 ……なんで、あんなことを、

 僕に聞いて来たんだろう。

 

 それに。

 あの派手な服装の人は、

 夕空さんだったんだろうか。

 

 だと、すると。

 

 ……。

 

 まぁ、考えて分かることじゃないな。

 材料が少ない状態で考えても、休むに似たりだ。


 ……


 さむっ。

 湯冷めしてきた。

 

*


 ……ん?

 

 「廊下のほう、騒がしいけど、

  どうしたんだろ。」

 

 「は?

  あぁ……。」

  

 なにその、露骨に関心なさそうな顔。

 

 「野郎の転校生だよ。

  先週、1-3に来たんだと。」

 

 え。

 この時期に?

 

 「知らねぇよ。

  野郎の情報を俺に求めんな。」

  

 ……相変わらずだなぁ。

 

 「腹立つくらいの美男子だよ。

  全校中に広まりやがってこの有様。

  きっと詐欺師だ。俺には分かる。」

 

 ただの決めつけ。

 でも、気持ちだけは分かる。

 男性が許容できない水準で異性ウケを狙う奴は詐欺師臭い。

 実際、とんでもない詐欺師だったわけだし。


 「……。」

 

 ん?

 

 「……お前……

  いや、いい。」

 

 ?

 そういえば、料理研究部はどうなの?

 

 「……

  聞くなっ!」

 

 あ、なんかあったのか。


*


 <紗理奈ちゃん、合流するって>

 

 うわ。

 そうなんだよな。

 

 紗理奈さん、一昨日帰るはずだったのに、

 マンションが放火にあったらしくって、柚の家に泊ってる。

 大丈夫なのかな出席日数。

 

 <先いって、並んでてくれるみたい>

 

 あぁ、その手があるのか。

 っていうか、大丈夫なのか。

 あんな大きなコレクションに出たモデルなのに。

 

 <紗理奈ちゃんも気になってるんだって>

 

 まぁなぁ。

 たぶん、柚が美味しさを連呼し続けたんだろうな。

 

 「はーい。

  じゃぁ今日はこれで終わりです。

  またあした、元気にお会いしましょう。」

 

 終わった、か。

 

 よし。

 俊足移動だ。

 

 がらっ

 

 あ。

 柚が必死に動いてきてる。

 

 ここは待ってから合流

 

 うあ。

 顔からべしゃって転んだっ。

 

 「柚っ

 


  「きみ、

   大丈夫かい?」


 

 ぇ。

 

 ぇっ。

 

 柚のが、

 と、してる?

 

 ……

 

 「?

 

  ……きみ、は。」

 

 ……

 

 っっっっっっ!!!!!

 

 「佐藤耕平、だよ、ね。

  。」

 

 こ、

 こいつ、

 こいつは。



  高槻、駿っ!?!?

 


 「……

  忘れたことはなかったよ。」

 

 ……っぅっ!


 !?

 

 ゆ、柚……っ

 な、なんで、

 

 

 (死んじまえこの野郎っ!)


 (邪魔すんじゃねぇっ!)

 


  (私に、近づかないで。)

 


 !!!

 

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