第3章

第14話


 「おい。」

 

 ん?

 

 「ニュース。

  大ニュース。」

 

 は?

 

 「大船夕空、恋人がいるんだと。」

 

 え、そうなんだ。

 ま、あんな水際立った容姿なら、いて当たり前だけど。


 「お前、全然驚かねぇな。

  てっきり大船夕空狙いかと思ってたが。」

 

 「だから、高嶺の華過ぎるって言ってるでしょ。

  っていうより、どうして分かったの?」

  

 「告白。」

 

 は?

 

 「だから、野郎の告白。」

 

 全然わかんないんだけど。

 

 「いままで、大船夕空は、

  『んー、まず、知り合ってもいないからねー。』

  とか

  『まだ、そんなきもちになれなくてー。』

  とか言ってたんだよ。」

 

 「なに、その掠ってもいないモノマネ。」

 

 夕空さんって、

 そんな語尾伸ばすかな。

 

 「うっせぇバカ。

 

  そしたらさ、

  

  『んー、あたしいま、

   好きな人いてさー。

   ごめんねー?』

   

  だとよっ!」

 

 清々しいくらい似てないな。

 はっきりいってキモい。

 

 って、

 好きな人?

 

 「それって、恋人なの?」

 

 「おま、

  大船夕空の誘い、断る奴、

  地球上にいるか?」

  

 大げさな。

 

 「な、ビックニュースだったろ。

  これで1位は潰れたから、

  2位以下に野郎の告白が行くわけよ。」

 

 ん?

 ……あれ。

 

 って、ことは。

 

*


 「う、うん。

  わりと、来る。」

 

 ……そっか。

 遂に、この日が来てしまったのか。

 柚が、他のオトコに盗ら

 

 「だからね、

  こう、びしっ、て

  断ってるの。」

 

 ん?

 

 「『生まれ変わっても、

   貴方とは一緒になれません』

  ってっ。」

 

 ……

 なんでそんな可愛いドヤぁな顔なの。

 人差しぴかーんと指立ててるし。

 

 「っていうか、

  お話もしたことないのに、

  お付き合いなんて、無理だよぉ。」

 

 ……まぁ、それはそうだなぁ。

 

 ん?

 

 「柚、クラスで

  話してる男子とかいるの?」

 

 「え?

  

  ……

  最近、オトコの人と話したのって、

  歴史研究会の人、かなぁ。」

 

 えぇ?

 もう随分前じゃないか。

 

 「あ、クラスに一人だけいてね?

  ネトゲの話をちょっとしたりする。」

 

 ちくっ

 

 「でも、その人、

  もう彼女さんいるよ?」

 

 え。

 ゲーマーなのに。

 

 「チームとかゲームにもよるけど、

  ネトゲの人って、そこそこ、リア充の人もいるよ。

  こないだも、ボクシングの試合、彼女と見にいってた人いたし。」

 

 ……ネトゲとボクシング。

 世界線が違いすぎて混乱する。

 

 「だって、

  紗理奈ちゃんだってモデルだし。」

 

 それは、だいぶん特殊な話で。

 バレたら大変なことになりそう。

 

 「それに、

  ……ううん、なんでもない。」

 

 ん?

 

 「なんでもないのっ。

  と、ともかく、ちゃんと断れるから。」

 

 ……なら、いいんだけど。

 同じクラスじゃないからなぁ。


*


 「あー、うん。

  あたしもちょっと、考えなしだったかなって。」

 

 まぁ、さすがの夕空さんも

 めんどくさくなったんだと思うけど。

 

 「あはは、ご名答。

  RINEで一斉に20件来た時には流石に凹んだ。」

 

 う、わ。

 

 「そういうのはテンプレで返信しておけばいいんだけどさ。

  これじゃ弱いな、って、ちょっと表現変えたら。」

 

 あぁ、なるほど。

 

 「じゃ、ほんとに好きな人がいる、

  ってわけじゃないんだね。」

 

 「……

  どう、だろ。」

 

 ん?

 

 「あはははは。

  なんでもないよ、なんでも。

  

  でさ。

  柚の件、正直、

  ちょっとまずい。」

 

 ……。

 

 「恭子も男子達に告白されてるから、

  こっちの廻りだと、護れるの、

  2人しかいないんだよね。」


 ……そういえば、

 三鷹恭子さんも、上位に入ってたっけ。

 改めて考えると凄いグループだな。

 

 「うちの組、女子がちょっと割れてるから、

  全員、柚の味方ってわけでもないんだ。

  あたしが悪かったりするんだけど。」

 

 うーん。

 まぁ、嫉妬はされるだろうなぁ。

 夕空さんのトコ、学年上位を独占してるわけだし、

 なにより、夕空さん自身が。

 

 「んー、っていうかね、

  ぶっちゃけて言うと、中学のあたしって、

  絶賛テニス少女なわけ。

  

  肌とかこー、こんがり。

  教室でも半分くらいジャージだったしね。」

 

 あー。

 

 「その感覚でやってたトコあるから、

  ちょっと、捌き方、間違えた感じもあるんだ。」

 

 そこまで先廻るのは無理じゃ。

 

 「あはは。

  まぁ、そうなんだけどさ、

  この肘じゃ、運動部は無理だから。」

 

 ……

 日常生活に支障はなくなったらしいけど、

 激しい運動は難しいんだっけ。

 

 ……。

 

 「これ、さ。」

 

 「うん。」

 


  「僕が、柚に、

   その、告白、

   すればいいのかな。」


 

 いい加減、伝えないととは思ってたし。

 正直怖いし、これでいいのかとは思うけど、

 こういうきっかけでもないと。

 

 「……

 

 

  うーん。」

 

 え?

 

 「あー、うん。

  たぶんね、二週間くらい前だったら、

  それで収められたと思うんだよね。

  

  いまだと、

  ちょっと、不自然な感じになる。」

 

 不自然?

 

 「あとさ。」

 

 うん。

 

 「気づいてないだろうから言っておくけど、

  きみ、女子の中で、評価、相当高い。」

 

 ……

 は?

 

 「あはは。

  その間、耕平君らしいな。」

 

 え、だって。

 

 「体験学習の時、

  クラスの地味な子のゴミ、

  さらっと持ってあげたりしたでしょ。」

 

 えぇ?

 なんでそんなこと夕空さんが知ってるの?

 

 「知られるんだな、これが。

  そういう立場になっちゃってるってこと。

  ま、あたしと同類かな?」

 

 どういうこと?

 

 「それとね、

  男子の、女子にバレてる。」

 

 げ。

 そ、それは。

 

 「姉弟で通ってる子とかもいるからさ、

  そっから色々。

 

  あんな大々的にやったら

  バレないわけないんだけどね。

  あはは。」

 

 うっわぁ……。

 

 「まぁちょっと、火消しするから、

  それまで待ってくれる?」

 

 ……。

 

 「うん。

  わかった。」

 

 「……

  ごめん、ね。」

 

 ん?

 眼が、少し、昏くなったような。

 

 「あー、うん。

  なんでもないなんでもない。

  んじゃ、まったねーっ。」

 

 ……。

 なんか、隠してる感じだったけど。

 まぁ、夕空さんだからなぁ。分からないか。

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