第12話


 電池を、入れて……と。

 

 ……

 うん。

 動いた。

 

 修理屋に持ってったら、

 ネジがちょっと緩んでただけで、

 あとは電池を入れ替えるだけだった。

 

 17歳、

 最初の月曜日。

 

 止まっていた時計の針が、

 動き出した。

 

 気がする。

 なんとなく。


 ふふ。

 

 ぴーんぽーん

 

 がちゃっ。

 

 「おはよう、耕平っ!」

 

 あぁ。

 柚は、今日も、可愛い。

 

 ……うん。

 もう、懼れない。

 

 僕は、柚を

 

 ぶーっ

 

 ……ん?

 

 紗理奈、さん?

 

 <これ、例の>

 

 ?

 

 え゛っ

 

 『未成年者を許可なく就業させていたとして、

  風俗営業法違反の』

 

 !?

 

 こ、

 ここに、

 う、

 映りこんじゃってる姿は

 

 ぶーっ

 

 <これ、まずいよ>


 夕空さん、だ。

 ……おんなじ情報源、か。

 

 ……あぁ。

 なんて、ことだろう。


 これだけ鮮明なら、特定されてしまう。

 ここに映っているのは、松山倫子だと。


 ……遅かっ、た。

 躊躇った、ばっかりに。

 

 ……

 これは、もう。

 

 ……

 

 あぁ。

 柚が、不安そうな顔をしてる。

 

 ……

 そう、だ。

 

 (耕平っ、

  おたんじょうび、

  おめでとうっ!)

 

 (わたし、ずっと、ずっと、

  やりたかったから。)

 

 柚が、正しいんだ。

 

 そうしたいことを、

 素直に、やるべきだったんだ。

 

 どんな行きがかりがあっても、

 どんな非道なことをされたとしても、

 

 (もう、だめ。

  だめ、なの。)

  

 あの時の倫子に、

 手を、差し伸べるべきだった。

 僕がどれだけ傷ついたとしても。


 柚なら、

 きっと、そう、する。

 そうして、くれるから。


 ……

 もう、遅い。

 手遅れになってしまっている。

 

 だと、しても。


 「柚。」

 

 「う、うん……。」

 

 「ごめんね。

  柚と交際する前に、

  片付けないといけないことがあるんだ。」


 「こ、

  こっぅっ!」

 

 ……え。

 なんか、泡、吹いてる?


*


 手順が、まったく違う。

 意味があるかと言われたら、なにも、ない。

 贖罪に、なるわけもない。

 

 それ、でも。

 

 被害者が泣き寝入りしてるからといって、

 法律上、対象にしづらいからといって、

 のうのうと生かしておいて、良いわけは、ない。

 

 イケメンを、有罪にする。

 

 「ということだから、

  知恵を貸して欲しい。」

 

 「あはは。

  それを、あたしに言うんだ。」

 

 「夕空さん、知恵者だからね。」

 

 「うわ。

  生まれてこの方、はじめて言われた。」

 

 えぇ?

 

 「あはは、あたしなんて、

  おつむの弱そうな元気印してれば、

  そういう風に思われることないでしょ。」

 

 うーん。そういう隠れ蓑か。

 ある意味、一番タチ悪いな。

 

 「まぁ、耕平君が言うなら、ね。

  知り合いにも、どうにかしてやりたい、

  って思ってる娘はいるしさ。」

 

 あら。

 情報源絡み、か。

 いや、というよりも。

 

 「知恵を貸してって言っただけで、

  手伝って欲しいとは言ってないんだけど。」

 

 「あはは。

  それはいまさらだよ、耕平君。

  あたしだってほっといちゃったからね。

  これはさすがに考えてなかった。」

 

 「それはただの偶然だし、

  それも含めて、

  究極、倫子との関係はないと思うけど。」

 

 「なんだけど、さ。

  ほら、部活入ってないから、ヒマじゃない?」

 

 あ、あぁ。

 まぁ、確かになぁ。

 部活入ってたら、

 こんなこと考える余地は微塵もなかったろうな。

 

 「くれぐれも、お縄にならない範囲でね。」

 

 「えぇ?

  手、縛るなぁ。」

  

 超えるつもりだったのか。

 学年一の美少女の見た目なのに。


 「塀を超えなければいいんだよね?

  やりようはあるよ。」


 うわ。

 めっちゃ綺麗な瞳。

 考えてる中身と違いすぎる。


*


 ……

 ふぅ。

 

 <こんなところ、かな?>


 Iscordeに出来あがったデータを送ると。

 

 <お。

  耕平君、上手いね、作るの>

 

 <小学生の頃、

  母さんの手伝いさせられたりしたから

  子ども会とか、マンション管理組合とかの>

 

 <あはは、そうなんだ

  そっちはどう?>

 

 <名前、分かってるから、

  大したことない>

 

 ……高校名どころじゃないな。

 自宅、スマホの番号、口座番号

 個人情報が駄々洩れ

 

 <事務所の人に頼んだ

  やばい現場に連れてかれた時の貸しだから、

  キニスンナ>

 

 ……はは。

 いろいろ、頼もしすぎる。

 でも

 

 <これ、ほんとに合法?>

 

 <違法なことはしてない

  って、言ってた>

 

 ホントかな。

 その人達の世界の法律と、

 こっちのやつが違ってたりしないかしら。


 <で、リアルで繋がってた奴だけで、

  16人、だっけ?>


 (でも、

  三人は、いるの。)


 宝塚俊永と交際していると思っている人に、

 うすうす気づいていた人を、

 夕空さんの人脈で個別に聞き取って貰い、

 集計して浮かび上がった実人数。

 重なり合う人が少なかったことに驚いたが。

 

 <もうちょっといたかも

  耕平の計だと、幼馴染の貢ぎは9位>

 

 ……反吐が出る。

 立ちん坊までさせといて。

 どんだけ悪辣なことしてたんだか。

 

 <実家太いイケメン♂、だいたいクズ

  経験則>

 

 ……現職のモデルが言うと説得力あるな。

 

 <じゃ、耕平も?>

 

 は?

 

 <

 

 ……あはは。

 そりゃそうだ。

 

 <え?>

 

 <耕平は神メン

  三時間前衛タンク盾役やってくれる>

 

 ……ネトゲの話ね。

 

 <……

 

  ま、いいや

  火薬のパーツ、揃ってきたね>


 <うん>

 

 <そろそろ、混ぜますかっ>


*


 ……う、わ。

 

 <尾行のプロ

  元ストーカー>

 

 夕空さん、やばい人知ってるなぁ。


 でも、これで、

 埋まっていなかった被害者の住所地を、特定できる。

 

 今回の場合、知りたいのは、

 本人ではなく、被害者側だから。

 

 おっと。

 

 「?」

 

 ……はは。

 なんだろう、柚。

 首を傾げる仕草すら、いちいち可愛い。

 

 ……

 なるほど。

 夕空さんが、柚を巻き込みたくなかった気持ちは分かる。

 痛いほど。

 

 「ど、どうしたの?

  そんな、じっと見たりして。」

 

 「ん?

  今日も柚が、

  すっごく可愛いなって。」

  

 「っぅふっ!?」

 

 ……

 はは。

 なんか、柚が座席に蹲る姿を見てるだけで、

 いろいろ、浄化される。


 <メインクエクエストタゲターゲット捕捉>

 

 ……FPSじゃないんだから。

 しかし、紗理奈さん、凄いな。

 本丸を落としたか。


 ……

 すべて、揃った。

 復讐の時、だ。


 <送って>

 

 <うむ>


 <らじゃっ>

 

 ……

 

 え?

 柚、まだ顔、赤いんだけど。

 眼、潤んでる?

 

 「お、お、驚かせないでっ。

  ひ、人が、見てるんだからっ。」

 

 「う、うん。」

 

 ……はは。

 ははは。

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