第10話


 「や。」

 

 ……うん。

 

 夕空さんとRINEを交換して、

 最初に送られたきたものは。

 

 「見た、ね。」


 ……間違い、ない。

 

 宝塚俊永。

 倫子を、僕から奪って行った男。

 

 「……たぶん、相手は女子大生か、

  社会人って感じ、だと思う。」

 

 そういうホテル、だな、これ。

 渋谷あたり?

 

 「たださ。

  これ、どうしようって。」

 

 ん?

 

 「だって、耕平君の幼馴染、

  こういうゲス男だと分かって、

  付き合ってるかもしれないし。」

 

 ……


 「このゲス野郎、見た目だけはえらくいいし、

  実家もけっこう太そうだしさ。

  

  顔だけで付き合ってるフリしてるオンナって、

  結構、いるからね。

  一緒に映ってるのをまわり向けに見せられれば

  それで、みたいな。」

 

 あ、あぁ。

 あるだろうな、そういうの。

 

 (……

  こんな、辛いなんて、思わなかった。)

 

 「でね?

  これ、柚に見せると、

  このゲス〇ン、殴りにいきそうじゃない?」

 

 え。

 

 「柚って、なんていうか、

  ピュアなんだよね、いろいろ。

  『こういう付き合い方しちゃだめっ』

  みたいなのを、真剣に言いそうなんだよ。」

 

 ……それは、ありそう。

 

 「だから、ね。

  ただ、一応、入手はしちゃったから。」

 

 ……

 ルートは聞かないほうがよさそう。

 でも。

 

 「ありがとう、わざわざ。」

 

 「あ。

  

  ……うん。

  

  ま、たまたまね? たまたま。

  あはは。」

 

 学年一の美少女らしい夕空さんは、

 屋上の淡い風に吹かれて、少し長くなった髪を靡かせている。

 そんな日常を切り取った姿すら絵になる。

 

 「え、なぁに?

  あたしのこと、じっと見つめて。

  惚れた?」

 

 「惚れたら絶対怪我しそうだね。」


 「あはは。

  ……そうかも、ね。

  

  じゃ、あたし、行くねっ。

  じゃあねー。」

 

 ……ふぅ。


 さて、

 どうすべきなのか。


*


 幼馴染である以上、

 最後の手段礼状付家宅捜索は存在する。

 

 ただ。

 

 (あんたなんか相手にするわけないでしょ。

  人並み以下の癖に。)


 (私に、近づかないで。)

 

 ……。

 

 正直、

 破滅してしまえ、って思う気持ちがある。

 なんて薄汚い人間だろう。

 恥知らず。死ねばいいのに。

 

 ……。

 

 もし、夕空さんの言う通り、

 そうだと分かって付き合っていたり、

 いろいろされたとしても

 やっぱりあのゲス野郎に気持ちがあるんだとすると、

 余計なお世話以外の何物でもない。

 

 そもそも、四股だと分かってる時点で、

 さっさと次のオトコを見つければいいだけだと思うけど。

 

 ただ、なぁ。

 

 ……

 まぁ、綺麗な顔よな。

 

 くっきり二重だし、左右対称だし、

 目鼻立ち整ってるし、輪郭だって小顔系だし、清潔感しかない。

 イケメン無罪を絵に描いたような奴だ。

 それこそ大手芸能事務所とかに所属してそうな。


 (顔だけで付き合ってるフリしてるオンナって、

  結構、いるからね。

  一緒に映ってるのを友達向けに見せられれば

  それで、みたいな。)


 ……

 やめとこ。

 ありそうな話だし。

 

 (あの小動物感と透明感、たまんねぇなぁ。)

 

 ……

 柚も、こういうオトコが、近くにいたら、

 倫子みたいになるんだろうか。

 

 (柚みたいな子は、

  他にどんないい男が現れても、

  耕平君しかみえないから)

 

 信じ、たい。

 けど。

 

 ……

 あれ?

 

 (柚みたいな子は)

 

 それって、暗に、

 っていう意味?

 

 ……ちょっと、考えすぎか。

 一般的な話として

 

 ぴろん

 

 <おーるないとでーとのお誘いだぜっ>

 

 あぁ、紗理奈さんか。

 またペイント対戦かな?


 あ。

 紗理奈さんなら。

 

 って、紗理奈さんに出すと、

 柚に流れる恐れ前科持ちがあるな。

 ほんと、どうしたものか。


*


 週末。

 学校も、部活もない。

 

 日課も、終わった。

 ちょっと多めなくらいだ。

 

 ……時間が、余る。

 

 部活入ってない人って、

 どうやって時間を潰してるのかな。

 

 ……

 柚は、同じクラスの女子と

 街に遊びにいっているらしい。

 夕空さんがいるなら、まぁ、大丈夫だろう。

 

 ……どうか、してる。

 平日が来るのを望んでるなんて。

 

 metubeのネタも、だいたい見尽くしたしなぁ。

 最初に見せて貰ったやつが面白過ぎた。

 あれ以上のものって、なかなかないんだな。

 

 ……そういえば、

 いま、何時だろ。

 

 ……あれ?

 この時計、ひょっとして壊れてる?

 長針も短針も、ぜんぜん動いてない。

 

 仕方、ないな。

 スマホで

 

 ぴろん

 

 ……ん?

 なんてタイミング。


 <(生きてる? のスタンプ)>


 なんだ、こ

 

 ……あ、夕空さんか。

 もろに自分の写真出してるな。

 顔に自信がある人はこれだから。

 

 <いま、柚と一緒なの?>

 

 <え?

  なにそれ>

 

 え。

 

 <柚、

  クラスの友達と一緒に街にいった、って

  言ってたけど、てっきり夕空さんも>


 <クラスの友達?>

 <んー

  だれだろ、恭子とかかな>


 ……

 柚が、僕に、

 嘘を、ついた?

 

 ……

 

 <あー。

  一応言っとくけど、

  耕平君が思ってるようなことは、

  なんもないと思うよ>

 

 ……あはは。

 この間だけで読まれちゃってるな。

 僕ってそんな単純かな。


 <でさ、耕平君、

  ヒマだよね?>

 

 うわ。

 わかられてるな。

 

 ……

 

 ん?

 

 ぴぽぴぽぴぽん

 ぴぽぴぽぴぽん

 

 「あはは、つながっちゃった。

  柚に悪いなぁ。」

 

 掛けてきたの、夕空さんだろうに。

 

 「いやー。

  入れてたらさ、字面がナマナマしくて。

  ちょっとこれは、って感じになって、

  こっちにしよって。」

  

 ナマナマしい?

 

 「うん。

  耕平君の幼馴染、松山倫子で、

  いいんだよね?」

 

 うわ。

 まぁ、わかるか。

 交友関係広いみたいだし。

 

 「うん。」

 

 「そっか。

  シンプルに言うね。

  パパ活してる。」

 

 え

 

 え゛

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