第6話


 「お。」

 

 あれ。

 

 「また告白?」

 

 「あはは。

  まぁ、そんなトコ?」

  

 うわ。

 冗談だったんだけどな。


 ……

 まぁ、これだけの美少女なら、告白は来るか。

 目鼻立ちがくっきり整ってて、

 健康的なプロポーションが綺麗に締まってるのに、出るトコは出てる。

 立ち姿だけで、紗理奈さんと並ぶくらいに耳目を惹く。

 

 「……そっかぁ。

  柚、高校デビューだったかぁ。」

 

 あぁ、朝の話か。

 

 「耕平君のため、なんだよね。

  あはは、いじらしいねぇ。」

 

 僕のため、か。

 でも

 

 「……

  あー。

  あたし、なにしてんだろなぁ。」

 

 ん?

 

 「ううん、こっちの話。

  あ、そだ。

  

  耕平君って、

  柚のこと、どう思ってる?」

  

 え?

 どう、って。

 

 知り合い?

 っていうには、近い気がするけど。

 

 「彼女にしたい、とか思わないの?」


 え。

 

 「……思わ、ない。」

 

 「なんで?」

 

 「……他の男に取られそうで。」

 

 「えぇ?

  そんなわけないじゃん。」

 

 あぁ。

 ……

 

 「……


  その、さ。

  前、幼馴染が、いて。」

 

 「うん。」

 

 「……ずっと、一緒だと、思ってたんだけど、

  向こうは、そうじゃなかったみたいで。」

  

 「……。」

 

 「怖いんだ。

  違うって、分かるんだけど、怖い。

  土浦さん、変身する前に僕と知り合ってるってだけで、

  視野が広くなったら、他の男を好きになるって。」

 

 あぁ、

 知りもしない人相手になに言ってるんだ、僕は。

 

 「……そっか。

  わかるな、なんか。」

 

 え。

 なんか、詰られそうな気がしたけど。

 情けない、オトコらしくないって。

 

 「あはは。

  詰って欲しいの? Mなの?

  ラリーで振り回して欲しい?」

 

 「嫌だって。」

 

 「だよね?

  んー、まぁ、そっか。

  

  でもさ。」

 

 ん?

 


  「それなら、耕平君、

   もう、好きなんじゃん。

   柚のこと。」


 

 ……

 え?


 「あはは。

  そっかぁ。柚かぁ。

  

  んー。ま、そうだよね。

  たしかに、不安になるか。」

 

 ……。

 

 「でもさ、

  柚のほうがずっと不安だから。」

 

 ?

 

 「あはは。

  そーだなぁ。

  まずね、柚のこと、名前で呼ぶといいよ。」

 

 え。

 

 「だってさ、

  あたしのこと、下の名前で呼ばせて、

  柚が違ったら、柚、どう思う?」

  

 あ、あぁ。

 

 「柚はね、

  もう、耕平君しか見てない。


  でね?

  柚みたいな子は、

  他にどんないい男が現れても、

  耕平君しかみえないから。」


 ……。

 

 「それに、さ。」

 

 ん?

 

 「あー。これはいいや。

  あはは、じゃぁねー。」


 ……

 なんだったんだ?


*


 ふぅ。

 やっと授業終わった。

 

 そういえば今日、

 歴史研究会を見に行くんだったっけ。

 

 ぶーっ。

 

 <迎えに来てよ、彼氏でしょ?>

 

 は?

 

 <いまのちがうっ!!!>

 

 ……またスマホ奪われたのか。

 PINコード設定したほうがいいのかも。

 

 (耕平君、

  もう、好きなんじゃん。

  柚のこと。)


 ……

 迎え、行こ。


*


 「歴史研究部、どうしよう。」

 

 うーん。ちょっと想像と違ったな。

 歴史ゲーマーの集まりって感じだった。

 洋モノと和モノがいたけど。

 

 「わたし、

  神社仏閣とか巡るのかなぁって

  勝手に思ってたんだけど。」

 

 「あー。

  が言えば付き合ってくれそうな感じはするけど。」


 男子比率100%だったしなぁ。

 オタク系じゃなくてもサークルクラッシュしそう。

 

 「え゛。」

 

 ん?

 

 「い、いま、

  いま、いま。」

 

 あ、あぁ。

 

 「夕空さんが、そうしろってさ。」

 

 「ゆ、夕空ちゃんが……。」

 

 「うん。

  大船さんって、呼ばれたくないんだって。」

 

 「あ。

  それ、わたしも言われた。」

 

 「でも、柚さん、って

  ちょっと、距離がある感じもするし、

  ちゃんづけもおかしいし。」

 

 「う、うん。」

 

 「だから、柚、でいいかなって。」

 

 「う、う、うんっ。

  こ、こ、耕平っ。」

 

 ん?

 あれ、顔がまた、真っ赤になって。

 

 「む、む、

  むりぃぃっ!」

 

 な、なにが?


*


 う、あ。

 とんでもない場所だなぁ。


 建物の材質にせよデザインにせよ、

 ピカピカのおしゃれさしかない。

 さすがモデルが行く店だ。

 

 場違い感しかないけど、

 行かなかったら紗理奈さんに殺されそうだし。


 「ご予約のお客様でしょうか?」

 

 「あ、えーと、

  紗理奈さんに入れて頂いているんですが。」

 

 「失礼ですが、

  上の御名前を頂戴できますでしょうか?」


 う、げ。

 そ、そういえば。

 

 「す、すみません。」

 

 <紗理奈さんって、名字なんだっけ>


 目の前の綺麗な美容師さんに笑顔で無言の圧を掛けられながら、

 史上最速でタップ入力すると、

 

 <?

  川越だよ>

 

 「か、川越紗理奈さんです。」

 

 「畏まりました。

  少々お待ちください。」


 ほっ。

 

 ……

 紗理奈さんは、紗理奈さんしか知らなかったな。

 最初から下の名前しか聞いてなかったから。

 

 「お待たせいたしました。

  どうぞこちらへ。」

 

 うわ。

 なんていうか、ピカピカだ。

 床にまでいちいちお金がかかってる感じが。

 

 「はいはい。

  紗理奈ちゃんの紹介だね。

  担当の青山です。よろしくぅー。」

 

 「は、はい。」

 

 うわ、めっちゃチャラそう。

 黒のワイシャツ着て下がちょっと切れたパンツで。

 髪がさらーって切ってあって、金の薄いネックレスして。


 20代? 30代? 

 年齢不詳な感じが凄い。

 

 「あはは。

  緊張しなくていいから。

  なんか、こうしたいとか、ある?」

 

 こうしたい。

 こうしたい、と言われても。

 

 「なきゃ、

  こっちで勝手にやるけど、いい?」


 えーと。

 

 「その、

  って思ってる女の子がいて。

  その子の傍にいて、恥ずかしくない感じなら、

  なんでも。」


 「あはははは。

  そうなんだ。」

 

 「は、はい。」

 

 「じゃ、おじさん41歳

  全力でやっちゃう。」

 

 は、はぁ。

 え、おじさんなの、この人。

 年齢不詳すぎるんだけど。


*


 「ありがとうございましたー。」

 

 ふぅ。

 ……なんか、気持ちよく寝られちゃった。

 

 ……なんていうか、

 なにが良くてなにが悪いか全然分からないけど後頭部しか鏡を見てない

 前よりはマシになった気がする。

 

 ワックスの付け方教わったけど、ちゃんとできるかな。

 あとで動画見ないとだなぁ。


 ……こんな高いトコ、

 そうそう来られないと思うけど。

 

 ん?

 あぁ。なんだ。

 バイト募集のチラシ

 

 あ。

 バイト、すればいいのか。

 

 部活に入らなければ、

 バイトすれば、こういうトコ

 


 

  「……耕、平?」


 

 

 え。

 

 え゛

 


 

  「……り、倫子?」


 

 

 なんで、こんなところで。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る