第4話


 テニス部の勧誘が20分も続いたせいか、

 教室にはもう、誰もいない。

 

 「ね、耕平くん。

  部活、ほんと、どうしよう。」

 

 土浦さんが、

 少し不安そうに僕を見上げてくる。

 

 ……

 だめだ、透明感が凄い。

 夕暮れに溶け込むような土浦さんの横顔を、

 見ていたくなっちゃってる。

 

 「土浦さんは、

  どこか入りたいところある?」

 

 「……

  現代遊具研究会?」

 

 なにそれ。


 「ネットゲームの同好会みたい。

  あー。でもなぁ。

  あの手のって、リアルだと揉めそうで。」

 

 校舎内にいるのに、土浦さんは、

 RINEのような無防備な口調で話しかけてくる。


 「紗理奈ちゃん、やめとけって言うだろうなぁ。

  オタク系はサークラ? になるって。」

 

 サークルクラッシャーの略か。

 確かにそうかも。

 

 「でも、そうすると、

  ほんと、どこに行けばいいかなって。」

 

 「その路線だと文芸部とか。」

 

 「それがね?

  あ、帰りながらでいいかな?

  できれば始発に乗りたいから。」

 

 あぁ、なるほど。

 

 「それでね?

  文芸部、10万字の小説、

  一本書かないといけないらしいの。」

 

 うわ。

 

 「なにもしない幽霊部員が多くて、

  制約を作ったんだって。」

 

 まぁ、確かに。

 文芸部なんてなにもしなくていいイメージがあるもんな。

 現に僕らも、このハードル聞いて止めようとしてるし。

 

 「あとは料理研究会とかだけど、

  耕平くん、入ってくれないでしょ?」

 

 え、あぁ。

 

 「まぁね。

  入りたいっていう奇特なオトコもいたけど。」

 

 「あはは。

  下心があるんだろね、きっと。」

 

 ありありだよ。

 

 「それでね?

  ここなら、っていうのもあって。」

 

 ん?

 

 「歴史研究部。」

 

 それはまたマニアックな。

 

 「うん。

  週一回しか集まらなくていいんだって。」

 

 それはもう部活じゃなくて同好会だね。

 

 「そそ。

  でも、中身がよくわからないから、

  一人で行くの、怖いなぁって。」

 

 あぁ、それはよくわかる。

 

 「来週の月曜に活動があるみたいだから、

  耕平くん、一緒にいってくれない?」

 

 まぁ、

 別に、行くだけなら。

 

 「やったぁっ。」

 

 ぇ。

 

 「!?」

 

 い、いま、

 抱きつかれたよ、ね?

 校舎内なのに。

 

 う、うわ。

 顔、真っ赤にして

 めっちゃ凄い速度で走ってった。

 

 って、

 お、追いかけないとっ。


*


 ぴろんっ

 

 <いま、なにしてる?>

 

 ん?


 <風呂あがったトコ>

 

 <じゃ、

  ハダカ、撮って送って>

 

 は?

 

 ぴぽぴぽぴぽんっ

 ぴぽぴぽぴぽんっ

 

 「い、いま、

  いまの、いまのはわたしじゃないからっ!」

  

 「う、うん。

  紗理奈さん、来てるんだよね。」

 

 「そ、そう。

  そうだからっ!」

  

 (だってこっちはこないだ送っ)

 

 <友だちのネットワークが不安定なため通話が終了しました。>

 

 は、はは。

 はははは。


*


 ぴろん


 ……あはは。

 

 <紗理奈ちゃんと>

 

 テーマパーク、かぁ。

 従姉妹同士仲良くてなにより。

 っていうか、紗理奈さん、撮影じゃなかったっけな。

 

 ……

 二人とも、綺麗だよなぁ。

 全然加工しないでこれだもんな。

 っていうか、モデルの紗理奈さんと並ぶってことは、

 土浦さんも、ぜんせん、勤まったってことだよな。

 

 ……

 だめだ、考えると重くなってくる。

 倫子みたくなる前に、こちらから手を離したほうが


 ぴろん

 

 ……ぶっ!?

 

 <おすそわけ>

 

 な、え、は

 さ、紗理奈さんって、

 中におっさんでも入ってるの?!

 階段の下のアングルから撮るって立派なと

 

 <消してぇっ!!

 (マダ〇さまのスタンプ)>

 

 ……

 これは、さすがに、

 スマホには残せないわ。

 PCの一番奥の地味名フォルダに圧縮しておこう……。


*


 ……やれやれ。

 metube見てるだけで時間が経っちゃった。


 本能的にテニスの動画見ちゃってたけど、

 もう、要らないんだよなぁ。

 

 紗理奈さんが送ってきたペイント対戦の動画とか、

 ポ〇モ〇の手製偽造レアカードに友人がひっかかるか?

 みたいなのも面白かったけど。

 

 あぁ。

 せめて勉強してないといけなかったような気がする。

 えらい無駄に過ごし

 

 ぴろんっ

 

 <今夜は寝かせないぜっ>

 

 は?

 

 って、もう。

 ただのペイント対戦のお誘いじゃないか。

 いろいろ紛らわしいな紗理奈さん。


*


 ふ、わぁ……。

 ……朝、五時前なんだよな。

 今日、一応、学校なんだけど。

 

 あ。

 

 「ねっみー。」

 

 そりゃまぁ、眠いだろうよ。

 

 「ほら、ちゃんと歩いてっ。

  紗理奈ちゃんが昨日の新幹線、

  キャンセルしちゃったからなんだよっ。」

 

 ……あはは。

 こんな感じなんだ。

 

 「おー、

  リアルじゃん。」

 

 なんだその言いぐさ。

 っていうか、紗理奈さんと顔を合わせるの、凄い久しぶりだな。

 これで二度目だっけな。

 

 ……さすがはモデル。

 化粧してなくても、耳目を惹く。

 ただホームに立ってるだけなのに、纏ってる空気が全然違う。

 見られること、魅せることに慣れていて、人の視線を微塵も恐れていない。

 

 ん?

 

 なんか、じっと見られてる気が。

 

 ……スマホ弄り始めた。

 気のせいか。

 

 「ほれ。」

 

 は?

 

 「明日の18時、

  ココ、とっといたから。」


 ココ?

 

 「あーもう。」

 

 紗理奈さんは、

 器用にスマホを弄ると、

 

 ぴろん

 

 あ。


 え、リンク?


 「紗理奈ちゃん、電車来るっ。」

 

 「あー、うん。

  乗る、乗るって。」


 「そう言って

  アトラクション一個逃したんだからね。

  乗るまで見てないと。」

 

 どういうシチュエーション?


 「あはは、柚、

  うちのおかんみたい。」

 

 「っ!」

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