第12話 幸の激高


「...」


何かがおかしい。

その何がおかしいといえば何がおかしいかは分からない。

ただ感じ的にあまり良くない気配がする。

私はそう思いながら帰宅する。


すると母親が珍しく居た。

私を見ながら「お帰り」と笑みを浮かべてくる。

その姿に私は即座に全身を見る。

スーツ姿。

またもしかしたら仕事に行くのかもしれない。


「...お母さん。珍しいね。この時間に帰って来ているなんて」

「...うん。...その。...実は...」

「もしかして幸奈の事」

「そうね。幸奈ちゃんの事よ。...例の一件なの?」

「例の一件。...私は彼女に激高している」

「...そうね」


母親は何か言いたそうな顔をしている。

私は「...何」と聞いてみると。

「その」と言った。

そして「夫婦関係を解消しようと思うの」と切り出した。

私は「!!!!!」となりながら母親を見る。


「...貴方達の関係が悪くなっている。...そして良治さんとはパートナーとしてでも生きていける。...それを鑑みてね」

「...そこまでする必要は無かったんだけど」

「だけどこの状態は良くないわ。...今は一旦解消するべきと思ったの」

「...幸奈のせいだよね」

「それもそうだけど...ねえ。幸。...これは何」


そして何かを見せてくる。

それは...医薬品。

何故手に持っている。


そう思いながら私は「...」となって母親を見る。

母親は医薬品。

睡眠薬と風邪薬を見ながら「幸。...何をしているの?貴方」と心配げに聞いてくる。


「...何でそれを持っているの?」

「何でそれを持っているのって聞いてくるって事はこれが何なのか知っているの」

「...」

「...幸。...貴方...幸奈ちゃんに何かした?」

「...別に何もしてない」

「嘘。...貴方...これ...もしかして幸奈ちゃんの中に混ぜたりした?」


私はその言葉に「...」となる。

それから私は顔を上げて「混ぜていた」と告白する。

これ以上長引かせても無意味だろう。

すると衝撃を受けた様に母親は反応した。

「そう」と落ち込む。


「...貴方が何かしていると思ったからその危険もあって離婚する事にしたの。互いに頭を冷やす為にね」

「...そうなんだね」

「幸。止めてくれる?そういうのは...犯罪よ」

「私はとっくの昔に止めている。だけど...私はどうしても許せないから」

「...それは分かるけど...」

「お母さんは許せなくないの?こんな状態になって」

「...そういう事を考えている場合じゃないわ」


私は「...話をすり替えるなって言いたいの?私は本気で幸奈が許せないよ。全てぶっ壊したから」と怒る。

すると母親は「...それは分かる。...だけど...幸。これと幸奈ちゃんを傷付けるのは別よ。幸奈ちゃん...本気で苦しんで...」と言った所で私はカッとなった。


「私だって苦しんでいる!!!!!どれだけ苦しんだか!信頼していた姉にも裏切られ!!!!!絶望だらけだよ!!!!!」

「さ、幸...」

「私はこれでも幸奈が更生するだろうって!!!!!2度も3度も裏切られたんだよ!!!!!もう我慢の限界だった!!!!!幸奈には死ねってね!!!!!」

「...」

「...これでも私は幸奈と仲良くしたかったんだよね」

「...そうだったのね...」


泣き崩れる母親。

私はその様子を見ながら掌で私の頬を叩く。

クソッタレが。

どうしたら良いの。

私は忌々しいし全てが忌々しい。


「...幸。...私は...家族の幸せを願っていた」

「...そうだね。私もそうだった」

「貴方の気持ちを...分からなかった」

「...そう」


そして母親はハンカチで顔を覆う。

私はその姿を見ながら母親を抱き締めた。

それから「私はもう何もしない。だけど私は二度と幸奈を姉とは思わない」と告げてからそのまま抱き締めた。

顔を上げる。


「...幸。貴方は貴方のペースで生きて」

「...言われなくてもそうする。...で。良治さんは」

「...良治さんは帰ったら全ての手続きをするって言ってる」

「そう」

「...良治さんが幸奈ちゃんを引き取ってから...出て行くって」

「...それが妥当だと思う」


私はその言葉にそう答えながら和室の仏壇を見る。

そこには...お父さんの遺影がある。

少し前に亡くなったお父さんの遺影。

私達が...好きだった家族の遺影。


「...お父さんはなんて思うだろうね」

「お父さんなら...どうするだろうね。...分からない」

「そうだね。...取り敢えずは今は目の前の事を...どうにかしたい」

「...分かった。協力するわ」


そして私達は立ち上がる。

それから私達は取り敢えずお父さんに手を合わせてから襖をゆっくり閉める。

お母さんは「あと2時間ぐらいしか居れないから家事をしていくわ」と言ってから家事をし始める。

私はその事に頷きながら勉強した。



私のお父さんと。

幸のお母さんが私のせいで離婚する。

そう決まったそうだ。

これはこれで...とは言っても。

私がとやかく言える立場じゃ無いし何も言わない。


「...」


私は公園に出てから空を見上げる。

7月の青空は暑く照りつける様だった。

だけど私の感触はそうは感じない。


寧ろ。

後悔と虚しさしか。

無かった。


「...私は何をしているのだろう」


そう呟きながら私は手元にある甘いコーヒーを飲む。

缶に入ったものだが微糖である。

今日は甘いコーヒーが飲みたいと思っていたから。

馬鹿な私に染み渡る。


「...」


私は空を見上げる。

それから「ほう」と息を吐いた。

そして目の前を見る。

目の前では...子供がサッカーをしていた。

それを見ていると「あら」と声がした。


「...貴方は...」

「飯田。飯田芽美」

「...そうだよね。...こうして会話するのは珍しいかな」

「そうね」


そして飯田さんは横に女児を座らせる。

見た感じ...飯田さんの妹さんだろう。

そんな感じに見えた。

失礼ながら母性があると思ってしまったけど。


「その。どうしたの」

「...偶然見掛けたから。...これ」

「...これ。お茶?どうしたの?」

「これ飲んで話しない?」

「...え?い、良いけど...」


飯田さんは女児を遊びに行かせてから私を見る。

そして何か乳酸菌飲料を飲み始める。

私はその様子を見てオドオドしながら前を見た。

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