第8話 キリエナの悩み事

「......はい。それでは、レイナさんの試験は一週間後ということでよろしいですかな?」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「いえいえ、キリエナさんの実績は私の耳にも届いています。そんな貴方が推薦する御方なら問題は無いでしょう。優秀な魔法使いが御校に入学してくれるのなら、断る理由も特にありません。それでは、授業に遅れないように。」

「ありがとうございます。 失礼しました......」


 会釈をしながら、ゆっくりとドアを閉じる。

 学校長との話を終え、キリエナは部屋を退出した。


 「な、なんとかなった......」


 息を吐きながら安堵する。

 出自や身分がどうであれ、優秀な者は歓迎する。

 この学校の校風に、ここまで感謝する日が来るとは......


 それにしても、レイナさんの話を盛り過ぎたような気もする......


「彼女は、私が見た中でもかなり優秀な魔法使いです!!」

「魔法学に対する意欲も人一倍あります!!」


 嘘がついていないが......随分とハードルが高くなってしまった。

 しかし、彼女が魔法学校に入学できなければ、

 なりふり構ってはいられないのだ。

 その理由は......


 私は、先月配布された魔法学校新課程の用紙を取り出す。


 今年から、魔法学校の生徒に求められる成績が若干変更され、それに合わせて授業内容も見直されるという旨のものだ。

 二年生になって評価点が変更されるのには少々驚いたが、それは大した問題ではない。

 自分で言うのもなんだが、一年生の時からしっかりと優秀な成績を残し、進学している。

 多少評価が変われど、成績が足りなくなることは無いだろう。


 問題は......


 用紙に書かれている『新型対人戦闘演習』の文字。

 対人戦闘演習とは、一対一で魔法を使った戦闘を行い、生徒の魔法使いとしての技量を判断するテストのようなものだ。

 勿論、参加しなければそれだけで大きな減点となってしまう。

 そのテスト自体も苦手ではないのだが......



 新型の演習は......協調性を高めるため、という理由でで行うのが原則となっているのだ。

 


 ......そう、つまり、このままでは私は条件が満たせず演習に参加できない。


 何故? そう、友達が一人もいないからである。


 レイナさんと話した時には「友達が少ない」と見栄を張ってしまったが......

 少ないどころの騒ぎではない。

 そう、友達が一人もいないのである。


 昼休みにわざわざ学校の外に出て、毎日一人で昼食を食べてきた人間に協調性など求められてもどうしようもない。


 どうして、こんな残酷なことができるのだろうか?

 二年生になってから、どうにか友達を作ろうと努力はしているが、全くもって手ごたえが無い。

 そもそも、一年生の内にグループが出来上がってしまっている。

 話しかけようにも何を話せばいいのやら。


 ペアをランダムに選んでくれればよいものを、自分の扱う魔法や立ち回りに合った相手を探すのも試験の内とかいう訳の分からないことを言われてしまった。

 もうダメだぁ......おしまいだぁ......

 

 そう思っていた矢先、レイナさんが私の前に現れた。

 

 彼女に入学してくれないかと頼んだところ、理由を話す前に、二つ返事で了承してくれたのだ。

 なんだか利用してしまっているような気もして後ろめたいが、彼女の行動を見ている限り、魔法学校に入学することに関しては異論は無さそうだから大丈夫だろう。

 むしろ、私が何もしなくてもいずれ入学してしまう気がする......

 

 しかし、彼女さえ魔法学校に入学してくれれば、新型の演習も難なく乗り越えられるはず。

 そのために、一年生からではなく二年生に編入させる試験にしてもらったのだ。

 試験の日程も決まった。

 今日からは、彼女とひたすら鍛錬を重ねていく。

 そう、私の唯一の友達、レイナさんと......ふふふ......


 私はスキップをしながら、次の授業へと向かった。

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