第9話 試し撃ち

 練習場に到着した玲奈は、早速魔法の試し撃ちを始めた。

 

「まずは......」


 午前中、キリエナとここに来た時のことを思い出す。

 あの時撃った『火炎フレイル』は、大きさと飛距離を上手く調節出来なかった。

 術印を頭にイメージしながら、詠唱を行う。


 「〔火炎フレイル〕」


 手の前に炎が渦巻く。

 あぁ、何度やってもたまらない......

 興奮を抑えつつ、大きさを調節する。

 前回よりも小さく、飛距離も短くして......


 音をたて、炎が真っすぐ飛んで行った。

 そして、5m程度飛んだくらいのところで消えた。


 うむ。この魔法は大体自分のイメージ通りに使えるな。

 問題点は詠唱から射出までに少し時間がかかること。

 こればかりは慣らしていくしかなさそうだ。

 

 しかし......


「気持ちいぃ..................」


 ............はっ。


 危ない危ない、魔法が最高過ぎて少し意識が飛んでいた。

 一人の時に気絶したら本当にまずいからな......

 少し感情を抑えて魔法を使うことにしよう。


「さて、それじゃあ次は......」


 魔導書で覚えた魔法を思い浮かべる。

 選り取り見取りで選べない......


 むむむむむむむむ......

 よし、とりあえずあれにしよう。

 

 私は手を前に構える。

 術印をイメージし、詠唱を行う。


「〔サンダ〕」


 電気が発生したと感じた瞬間、


 バリッッ


 と轟音が鳴り響き、雷が折り目をつけて正面に射出される。


「......あっぶなぁ~」


 流石に冷や汗をかいた......

 まるで横向きに雷が落ちたかのようだった。

 ほんの一瞬だったにも関わらず、前方の土が真っすぐえぐれている。

 

 なるほど......

 『火炎フレイル』と比べ、威力や大きさを調節するのが遥かに難しい。

 そのかわり、細かな調節を省けば一瞬で射出できるというわけか......

 不意の攻撃に対処したり、相手の隙を作る時には無調整のまま使用してもよさそうだ。


 しかしこの世界の魔法、本当に面白い。

 正直、想像以上だ。

 杖が無くても使用出来る上、多少練習すればある程度扱えるというのも最高だ。

 利便性の高い日常的な魔法も、私が夢見た魔法そのものだ。

 こんな世界に転移させてくれた神様に感謝を述べ......


「あっ」


 そういえば......


 この世界に来るとき、スマホから声が聴こえたのを思い出した。

 魔法の衝撃で完全に忘れていた。

 前半はブツ切りになっていて聞き取れなかったが、

 ハッキリと聴こえたのは確か......


「エイルグラントの花畑を訪れて......だったか」


 エイルグラント......どこかの地名だろうか。

 キリエナが言っていた都市の名前には無かったな。

 いや、そもそも人間領にあるとも限らないのか。

 そうなると結構探すのもめんどくさそうだ......

 

 考えても仕方ない。

 とりあえず魔法学校に入学することだけを考えよう。

 元の世界に戻してもらう必要は一切ないからな......

 今は魔法の練習が最優先だ。


「よし。それじゃあ次の魔法は......」


 私はキリエナが帰ってくるギリギリまで、魔法の練習を続けた。




ーーーーーーーー




 キィ、と扉が開いた。


「おっ、おかえりキリエナ」

「た、ただいま、です、レイナさん。えへへ、なんだか照れちゃいますね......」


 良かった、なんとか間に合った......

 

 すまし顔でおかえりなどと言ってみたが、

 ほんの10分くらい前に練習場から帰ってきたばかりである。

 なんとかキリエナが帰ってくる前に家に辿り着いたが......


 魔法を使うなと言われたのに、めちゃめちゃ使ってしまった。

 バレてないといいけど。


「いや~おなか減ってきちゃってさ。良ければ晩御飯を......」

「......レイナさん」

「ん? どうかした?」

「魔法、使いましたよね?」


 キリエナが笑顔で尋ねてくる。


 ばれた。もう少し耐えれると思ってたんだけど......

 

「ゼンゼンツカッテナイヨ」

「......どれくらい使ったんですか?」

「一回だけ! 試し打ちしただけだから!!」

「本当ですかぁ......?」


 じーっと私の顔を見つめてくる。


 本当のことを言うべきか......

 まぁ大体20発くらいだから誤差だが......

 

「まぁ、一回だけなら許してあげます......でも! 次からは絶対私の見てる時にしてくださいね!? もう、死んじゃったらどうするんですか......」


 おっ? 何とかやり過ごせたぞ。

 

「ちなみに......なんで魔法使ったって分かったの?」

魔力が減少してます。 私には分かるんですからね!」

「魔力をみるって魔法か......その魔法、私にも教えてくれない?」

「ダメです! 今日はもう遅いのでご飯食べたらすぐに寝ますよ。魔法の練習は明日からです!」

「むぅ......」


 一日お預けか......

 まぁ、キリエナを怒らせて追い出されたら飢え死にしちゃうし、大人しく従っておこう。


 それにしても、魔力の消費がほんの少し、か。

 割と何も考えずに連発していたような気がしたが......


 もしかして私は、魔法を使う際の魔力消費が少ないのだろうか。


 言われてみれば、体に違和感は感じない。

 消費されても問題無い量しか、生命魔力を消費していないということだろう。


 魔力が無い代わりにコスパは良い......か。

 それは嬉しいけど、だったら魔力がある方がよかったな......

 そっちの方がかっこいいし......

 どこ行っちゃったんだよ、私の魔力は......


 頭を抱えていると、キリエナが別室に入っていった。

 そしてひょこっ、と顔を出す。


「ほら、レイナさん。お風呂、魔法で沸かしちゃうので入ってきてください。その間にご飯作っておくので。」

「えっ、魔法でお湯を沸かすの!?」


 駆け足で彼女のいる浴室に入る。


「こ、こんなの見ても面白くないですよ?」

「いいからいいから」


 彼女は溜息をつきながら袖をまくる。


「〔温水ウォーム・ウォート〕」

 

 おぉ......

 木の浴槽に湯気を立てながらお湯が溜まっていく。

 こんなことまでできるのか......!


「お湯を出す魔法があるの?」

「お湯......というより、水魔法の温度を調整して使ってる感じですね」

「そ、そんなことできるんだ」


 おいおいおいおい。

 魔法、自由度高すぎるだろ。

 何でもできるじゃん......


「魔法の温度を調整できるってことは、滅茶苦茶熱い炎とかも使えたりする?」

「できるとは思いますが......イメージが難しいので私は出来ませんね」

「なるほどね......やっぱりイメージが大切なのか......」


 真剣に悩む私を見て、キリエナがクスっと笑う。


「レイナさん、本当に魔法が好きなんですね」

「まぁね。自分で言うのもなんだけど、結構今更じゃない?」

「いえ、最近はあまりそういう人、見かけませんので......」

「えっ? そうなの?」

「今や魔法は戦争の道具ですからね......純粋に魔法を楽しんだりする人ってかなり珍しいんですよ」

「ふーん。もったいないね」

「......もったいないですよね。本当に」


 まただ。

 また彼女が少し寂しそうな顔をしている。

 理由はきっと......


「さっ! レイナさん、お湯が入りましたよ!」

「えっ、あっ、うん。ありがとう、キリエナ」


 彼女は貼り付けたような笑顔でキッチンの方へ向かっていった。


 やっぱり、後で訊いてみることにしよう。

 彼女はもう私の友達だ。

 悩みを打ち明けてくれればいいんだけど......

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