第7話 指針

 魔法の初体験を終えてキリエナの部屋に帰ってきた私は、一人で本を読み漁っていた。

 午後からは魔法学校があるらしく、彼女は三時間ほど前に出て行ってしまった。


 彼女が通っているのは、『王立イーゼイル魔法学校』という学校だ。

 グナ大地の南側、王城都市ルイーゼの近くに建っているこの学校では、魔法の練習や研究が盛んに行われている。

 それ以外にも、緊急時には王家や民を他国の脅威から守るための行動するそうだ。

 三年制の学校だが、卒業した後も引き続き研究生として校内で活動できる。

 仕組みは高校に近いが、卒業後に研究が出来るのは大学っぽいな。

 幸い、入学に年齢の制限は無く、入学試験にさえ合格すれば誰でも入学できるらしい。


 おっと、興奮してよだれが出てしまった。


 ......何故、私が魔法学校についてこんなに調べているのか。

 まぁ個人的な興味があることは否定しないが......それとは別に、しっかりとした理由があるのだ。

 

 そう、この私、緋扇玲奈は......魔法学校に入学することを決めたのだ!!

 とは言っても、まだ試験には受かってないけどね......


 今、キリエナが魔法学校のお偉いさん方に話を付けてくれている。

 身分や出自は不明だが、他国の間者ではないことは証明できている、

 魔法の扱いには長けているから、戦力増強になる、といった感じで説得してくれるそうだ。


 彼女の頼みで入学することにはなったが、そもそも魔法学校なんてものが存在する以上、入学する以外の選択肢は無い。

 彼女には感謝してもしきれないな。

 

 とにかく、魔法学校に入学さえしてしまえば彼女に迷惑をかけなくて済む。

 軍隊として国の命令で働くことがある代わりに、食事はタダで支給、申請を出せば寮にも入れるそうだ。

 実績を積めば、給料も貰えるとか......


 なんというサービス精神......!!

 これも全て、魔法のお陰である。魔法万歳!


 とはいえ、入学試験に落ちてしまえば元も子もない。

 そのために私は彼女の部屋の魔導書を読み漁り、出来るだけ知識を蓄えようとしている訳だが......


 読んでいて不思議に感じたことがある。

 、読めるのだ。

 元からこの言語を知っていたような感覚にさえなる。


 魔法が存在する驚きで完全に忘れていたが、この世界に来てから普通にキリエナと話せている。

 そっちは完全に日本語にしか聞こえないのだが、文字のほうはなんというか......見たそばからリアルタイムで翻訳されている感じだ。

 理由は分からないが、言語を一から覚える必要が無いのは凄く助かる。

 魔力が無い私へのせめてもの救済措置ってことで、ありがたく受けとっておこう。


 この三時間で随分多くの魔法を覚えることが出来た。

 我ながら自分の才能が恐ろしい......!!

 これで魔力もあれば完璧だったんだが......


「さて、と......」


 読み終えた本をパタンと閉じる。

 一通り、彼女の持っている魔導書を読み尽くしてしまった。

 というか、夢中になって読み過ぎてしまったのだが。


 しかし......そうなれば魔法の練習をするしかないあるまい!!


 キリエナには、「私がいないところで魔法を使ってはいけませんよ!」と釘を刺されていたが、もう我慢できない。

 試験合格には魔法の鍛錬が必要なのだから仕方ない、仕方ないのだ。

 それにしても、魔導書を読んでいたとはいえ、よく三時間も我慢できたな......

 私は、覚えたての無詠唱魔法で部屋の扉を開けた。


 ぐふっ、これ何回やっても楽しい......

 

 外に出て魔法の練習場へと向かう。

 今日もいい天気だ。

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