第5話 提案
ニックは構想をまとめてリットの元へ向かった。
提案書の名前はローザ領改革案である。
提案書と言ってもかなりの簡略版であり、詳しい内容は口頭で伝える。
リットはこの時間は自身の執務室にいる。屋敷内を歩いていたメイドに聞いた。
「ここか…それにしてもかなり立派な扉だな…」
リットの執務室はローザ領の全てを統治する場所であり、扉もかなり重厚である。
ニックは扉をノックする。
「ニックです。父様に用があり参りました。」
「入りなさい。」
中からリットの声が聞こえニックは執務室へと入った。
執務室の中はリットのデスク、応接用のソファ、本棚がいくつも置かれ、書籍がびっしり並ぶ。壁には18代目当主の大きな肖像画が飾られている。18代目当主つまりニックの祖父にあたる。18代目当主の祖父と夫人である祖母は王都に住んでいるという。これも家系図で確認した。現在は元老院に所属している。
ちなみに元老院は貴族の各家の当主がその座を下りた後、このサリスタ王国のために働きたい志を持つ者が所属する。サリスタ王国の各行政機関が新たな政策などを打ち出す際に諮問する機関である。
「父様、僕なりに色々と調べました。そこでいくつか解決策、いや、改革案をまとめましたのこちらを見てください。」
「おぉ、もうそこまで…うん、見よう。座りなさい。」
ニックはリットに改革案を手渡し、応接用のソファに腰掛けた。
リットが改革案を読み終えるまでに5分ほどが経つ。
「ニック、各エリアの特性を拾い上げている点は素晴らしい。しかし、この案が簡単に上手くいくとは思えない…今求めているのは即効性のあるものだし…」
リットは少し消極的であった。
その理由はこうだろう。
農業は農産物の育成に時間がかかる。林業は競合する。そして漁業はその日によって状況が変わるし、生もののため日持ちしない。
そのため何か一つインパクトが残り、ほかとも競合しないものを生み出さなければならない。
「父様、その懸念は承知しています。そこで私なりにひとつ考えがあります。」
「ん?一体どんな案があるのかい?」
「即効性があるもの。つまりすぐに稼げる。それは国民に広まることが1番の近道。」
「それは一体…」
「娯楽品ですよ。」
「娯楽!?」
ニックが提案したものそれはなんと娯楽品であった。
この世界は前世と比べてかなり遅れていた。
それは娯楽もである。
ここは新規開拓しやすい。
それに量産もしやすい。
「父様、私の方でひとつ娯楽品を作ってまいります。必ず売れるのは間違いなしです。ですので父様は商会の立ち上げをお願いします。」
「ん、まぁわかった。商会の立ち上げくらいであればそう難しくは無い…」
「ではよろしくお願いします!明日には試作品を持ってきますので!では!」
ニックは半ば強引に話を進め、執務室を後にした。
「一体何をしようとしてるんだ…でもニックが自分からあのように動くとは…将来はもしかしたら安泰なのかもしれないな…」
1人残されたリットはそう呟いた。
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