第50話 脱獄がバレた!
レルシャたちはいよいよ四階へあがる。兄がいるとしたら、もうここしかない。しかし、四階にはザウィダがいるはずだ。
四階へ行くと、すぐに豪華な扉があった。砦のあるじの部屋。本来なら、伯爵家の当主か、当主から一任されてきた親族または騎士の部屋だ。今なら、兄の。そこに当人が捕まっているなんて、皮肉な話だ。
(ぼくは解放で能力値だけはあがったけど、戦闘経験とか、みんなを
なかに強い敵がいるかもしれないが、兄と再会できると思えば、心がおどった。
さあ、行こうと、顔を見あわせてうなずきあったあと、レルシャはゆっくりとドアノブに手を伸ばした。だが、そのときだ。ものすごい勢いで階段をかけあがってくる足音がする。
「レルシャ。誰か来たぞ」
「はい。父上」
しかたなく、らせん階段の上部へあがり、壁に張りつくようにして隠れる。やってきたのはワニ兵士だ。ワニの顔色はわかりにくいが、なんとなく血相を変えている感じはする。
ワニ兵士はさっきレルシャがあけようとした扉の前へ来ると、そこでひざまずいた。
「申しあげます。ザウィダさま。たいへんです! 地下牢にほうりこんでいた囚人たちがいなくなりました!」
すると、扉が内側からひらく。やはり、あの男だ。狩小屋でダークエルフを従わせていた長い黒髪の男。
「騒々しいな。地下牢から囚人が逃げただと?」
「はっ……はい」
「見張りは何をしていたのだ?」
「どうやら倒されたようで、失神しております」
「しかし、牢には鍵をかけていただろう?」
「それが……なぜか鍵があけられ……」
「もうよい。すでに砦から逃げたのかもしれぬ。が、そう遠くは行っていないはず。徹底して探せ」
そこへ、階下からもう一体ワニ兵士がやってきた。
「ザウィダさま! 一階の兵士たちが人間をとらえました。地下牢から逃亡した者の一人ではないかと」
ゾルムントだ。やはり、たった一人であの大群相手に逃げきることは難しかったのだ。
ザウィダは何やら考えこんだ。
「よかろう。今すぐ、その男を屋上へつれていけ。ドラゴンのエサにする」
思わず、階段のかげからとびだそうとするレルシャの腕を、父がつかんでひきとめる。
ザウィダはさらに続けた。
「やつらが助けに現れればよし。もしも来なければ、次は息子だな。そろそろ、見せしめにしようと考えていたところだ」
その意味に、レルシャは背筋が凍る思いがした。それは、兄が
ザウィダがいったん扉の内に消え、つれてきたのは兄アラミスと、そして、銀髪の美少女ソフィアラだ。二人は一本のロープでつながれ、両手を縛られている。
「つれていけ。一人ずつ、竜に食わせる」
そして、ザウィダはまるで、ここにレルシャたちがいると知っているかのように大声で叫んだ。
「レムラン伯爵よ。聞いているか? 今から、そなたの部下、小娘、息子の順に処刑する。一人ずつドラゴンに食わせてやる。止めたければ、一刻も早く屋上へ来るがよい。きさまの命とひきかえに息子は助けてやろう」
レルシャたちは歯を食いしばった。今ここで出ていって戦闘になるのがいいか。それとも、機を見て兄たちを救いだす方法を考えるほうがいいのか?
迷っているうちに、兄やソフィアラは屋上へ続く階段をむりやりひきずられていった。
「父上、どうしますか?」
「私が行く。私の命とひきかえにしてでも、アラミスだけは助けてもらわねば……」
そんなこと、ほんとに魔物が認めてくれるだろうか? いや、絶対にムリだ。もしも父が現れたら、ザウィダという男はまちがいなく、父も兄も殺すだろう。以前、狩小屋で会ったときに感じた。あのダークエルフには人間と同じあたたかい心などないのだと。冷たくかたい氷に閉ざされた心しか持たないと。
「ダメです。父上。行ったら父上も殺されるだけです」
「わかっている。しかし、ほっとくわけにはいくまい」
どうにかして、兄たちがドラゴンのエサになってしまう前に助けだせないだろうか? ドラゴンそのものと戦うのは不可能だ。ドラゴンは強すぎる。しかし、ザウィダだけなら……そう思えば、今が最後のチャンスかもしれない。兄たちがドラゴンのもとへつれていかれる前の今なら。
「父上やウーウさん、ダヴィドはようすを見て、兄上とソフィアラを救いだしてください。ゾルムントはまだここまで来ていない。まだ下の階にいるはずですから、兄上たちを助けたら、ともに救いに行ってあげて」
「レルシャ。何をする気だ?」
「ぼくたちはザウィダと戦います。父上はそのあいだに——」
いっきにとびだし、階段をかけあがる。
「行くよ? ニャルニャ、ラビリン、グレーレンさん!」
「なー!」
「ラビリン、やります!」
「行っくぜー!」
階段の途中で、ザウィダの隊に追いついた。
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