九章 兄を救え!
第48話 地下牢をぬけると
兵士とわかれて、砦を探索するレルシャたち。
地下一階はさっきも通った食糧貯蔵庫だ。兄が砦を奪いかえしたときに置いた備蓄なので、かたく焼いた保存食のパンやトウモロコシ、ホクホクイモ、プルプルイモ、あとはチーズやベーコン、干した果実、酒など。まだあまり魔物に食いあらされていない。ありがたく、いただく。
「はい。ニャルニャ、ラビリン。イチゴジャムがあったよ」
「な〜!」
「ジャム〜!」
「あたしにもくれー!」
「えっ?」
グレーレン、どう見ても肉食系なのに、意外と甘党だった。ホプリンたちと競うように、ジャムの瓶に指をつっこんでいる。
ここで体力を回復して、いざ、一階だ。地下より上は、まだレルシャたちも行ったことがない。
ウーウダリの間取り図によれば、一階には複数の兵士詰所と武器庫、食堂があり、いかにも敵兵がたくさんいそう。詰所がそのまま、兵士の宿舎になっている。二階は軍議室と物置、詰所が一つ二つ。三階は神殿のようだ。傷病者の治療室もかねている。四階はワンフロアしかなく、城主の玉座と寝所。そして、見張りのための屋上だ。
「一階をぬけるのがもっとも難しそうだな」と、アルムザバードが腕を組む。
「兄上が捕まっているとしたら、どこだと思いますか? 地下牢にはいなかった」
「監禁しておける場所は少ないだろう。二階の物置か、三階の神殿であろうか? 傷病者のための寝台があるな。個室になっているかもしれぬ」
「そうですね。行ってみましょう」
とは言え、どうやって一階を突破するかだ。地下から一階へあがる床の穴のところでのぞいてみると、ほんとに魔物だらけだ。多くはワニ兵士。ゴブリン。子どもガーゴイルもいる。
「目に見える場所だけでも百匹はいますね」と、ウーウダリ。「これはもう隠れてコッソリなんて言っていられませんよ」
たしかに、そうだ。
魔物たちをふりきりつつ、階段をかけあがるしかない。
すると、ゾルムントが立ちあがる。
「ゾルムント。何してんの? 見つかるよ。早く、しゃがんで」
「坊ちゃま。じいは足腰が弱っておりまする。全力で逃げるのに足手まといになるでしょう。ならば、ここで、じいが
言うが早いか、「わあっ!」と奇声をあげ、ゾルムントは走りだす。モンスターたちの目がゾルムントに集中した。
「ゾルムント!」
追いかけようとするレルシャを父がとめる。
「やつの決意をムダにするな。行くぞ」
「でも……」
「まずはアラミスをとりもどすのだ」
「……」
父にひきずられるようにして、らせん階段へたどりつく。もうゾルムントの姿は見えない。そこからは必死に走った。ゾルムントの覚悟をムダにしてはいけない。それはレルシャにもよくわかったからだ。
二階のあがりぐちに立つ。二階は一階にくらべ、目に見えて見張りが少ない。ここでいったん魔物たちの目から離れれば、隠密行動も可能になる。すぐに一番手前の扉をあけ、なかをうかがった。軍議室のようだ。とても広い。誰もいない。
「やはり、ここではないか」
しかし、ここはいい隠れ場所になる。大きな長卓が部屋の中央にあり、しかも裾長のテーブルクロスによって、長卓の脚が隠されていた。大人でもラクラクもぐりこめる。
「ちょっとこの人数では目立つから、ぼくとニャルニャだけで二階を偵察してきます」
「うむ。気をつけるのだぞ」
長卓の下に仲間を待たせて、レルシャはそっと軍議室をぬけだす。となりの物置に入ると、壁のむこうから声が聞こえてきた。人間にしてはかんだかいからモンスターだろう。
「おい。そろそろ、地下からイケニエをつれていかないとな。エサがもらえないと、あいつ、あばれるからな」
「おお、もうそんな時間か。毎朝、めんどくさいなぁ」
「しっ。そんなこと、ザウィダさまに聞かれたらたいへんだぞ」
「お、おお」
「何しろ、ザウィダさまのおかげだからな。あれほど強力な……を召喚できるとは」
「ウワサじゃ、呼びだしたのはまだガキだって話だが?」
「そのガキをつれてきたのはザウィダさまだ。我らの勝利は目前よ」
「まったくだ」
ドアのひらく音がして、会話は聞こえなくなった。誰かが廊下を歩いていく。
(イケニエっていうのは、たぶん、地下牢で捕まってた父上たちだ。イケニエをエサだって……なんのことだろう?)
それに、ザウィダというのは誰だろうか? ザウィダがつれてきたガキというのは?
なんだか気になる。
あの狩小屋で出会ったダークエルフの少年。それを追ってきた大人のダークエルフたち……。
(もしかして、ダヴィドがここにいるの?)
いったい、この砦で何が起きているのだろう?
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