第47話 脱獄しよう!



 重い空気がのしかかる。鉄格子は頑丈で、とても人間の力で折ったり、まげたりはできそうにない。解錠できるウーウダリは縛られているので身動きがとれないだろう。


「グレーレンさん。あなたの力でなんとか鉄格子をまげられませんか? 攻撃力1000はあるでしょ?」

「んあ?」


 グレーレンはひざにラビリンとニャルニャをのせて、しきりに頬ずりしている。幸せそうにヨダレすらたらしていた。


「いや、だから、鉄格子をゆがめてもらえると……」

「任せな。あたしの攻撃力は1500だからな!」

「それは心強いです」


 グレーレンは立ちあがり、ホプリンたちを床におろす。鉄格子を二本にぎって、思いきり左右にひっぱった。グググ……と、力まかせに押しひろげられた鉄の棒がゆがんでいく。


「おおっ、さすが……」


 これなら、人間が外へ出られるほどスキマがひろげられるかもしれない。期待したのだが——


 グウと盛大にグレーレンのお腹が鳴った。グレーレンはヘタリとすわりこむ。


「すまん。腹がへって力が出ねぇ」

「ええっ」


 残念ながら、急いできたので食べ物は持ってきていない。


「どうするんですか? これじゃ、子どものぼくでも外に出られないです」

「うーん?」


 もとの場所に戻ってきて、すぐにホプリンをなでまわすグレーレンを見て、そのとき、レルシャはひらめいた。


「あ、ちょっと待って。もしかして」


 ラビリンをだっこして、ちょっとだけゆがんだ鉄格子の前までつれていく。かかえたまま、スキマに入れてみる。通った。


「ラビリン、通れる!」


 ラビリンはホプリンのなかでも、とくに小柄なのだ。ニャルニャにくらべても身長が頭一つ小さい。体形はぬいぐるみっぽいものの、本物のウサギが二足立ちしたときと、そう変わらない。


「ラビリン、可愛いので通れました。キュルリン」

「お願い。ウーウさんが捕まってる牢屋まで行って、ロープをほどいてあげてくれないかな?」

「マスターの三の従者を救出するのですね?」


 ウーウダリ、いつのまにか三の従者あつかい。


「頼んだよ」

「お任せあれ」


 ラビリンはチョコチョコ歩いて二つさきの牢屋へ入っていった。しばらくして、カチャカチャと音が。


「レルシャさま。今、解錠します」


 ウーウダリがやってきた。

 助かった。これで全員、牢屋からぬけだせる。

 しかし、ここで、アルムザバードが言いだす。


「待て。レルシャ。全員で行動するのは目立つ。さきにおまえたちが行って、砦から逃げだしなさい。私たちは遅れて出ていき、アラミスを探す」

「ぼく逃げないよ」

「レルシャ。ここまで来てくれたのは嬉しいが、おまえは魔物とまともに戦えないではないか。牢屋から出してくれただけでありがたい。危険なめにあう前に逃げなさい」

「父上。ぼく、強くなったんだよ。姉上と戦って勝ったんだ」

「ここまで一つのケガもなく来られたことでさえ奇跡だ。きっと、よほど強い仲間たちなのだな。そこの娘は攻撃力1500だというしな。まさに十人力だ」

「ぼくだって魔法攻撃力782だよ。魔法杖の効果でほんとの威力はその四倍になるんだ」

「……レルシャよ。嘘はいかんぞ?」

「嘘じゃないよ。ほら」


 レルシャが服の下から護符をとりだしてみせると、アルムザバードは仰天した。


「こ、この大粒の才光の玉は、アラミスが解放したときに見た。百粒が凝固した大玉ではないか」

「ぼくの発見スキル、解放遺跡の扉を見つけられる能力だったんです。六十回くらい解放しましたよ」

「にわかには信じられんが……しかし、そうなのだな。この護符を見れば。アラミスより大玉の数が多い」

「だから、兄上はぼくらが探しに行きます。父上たちこそ、さきに逃げてください」


 父は決断した。長年、魔物と戦ってきた辺境伯なので、決断力は高い。


「どっちみち、この人数で魔物のうろつく砦内は歩けん。おまえたちはさきに外へ出ていなさい」と、アルムザバードは兵士たちにむかって言った。


「しかし、伯爵さま」

「今のレルシャなら、兵士十五人の戦力だ。ここは少数精鋭で行こう。私もついていく。そのかわり、兵たちは捕まったときに逃げた馬を探し、集めてくれ。アラミスが見つかったら、なるべく早く伯爵家へ戻れるようにな」

「わかりました。伯爵さま。レルシャさま。どうぞ、ご武運を」


 となりの牢屋の鍵もあけ、兵士たちを逃がす。彼らにはレルシャが通ってきた隠し通路の場所を教えた。ただ一人、老兵ゾルムントだけがついてくると言ってきかなかった。


「老いたるわがはいには、もはや惜しむ命はございません。もしものときには閣下の盾になりましょうから、ぜひ、つれていってくださいませ」


 説得している時間はなさそうだ。もう夜明けになる。急がないと、今日の処刑者を迎えに魔物がやってきてしまう。


「わかった。では、ともに参ろう。ゾルムント」

「はっ」


 兵士たちは外へ。

 レルシャたちは兄アラミスを探して、砦の上部へ。レルシャ。ニャルニャ。ラビリン。ウーウダリ。グレーレン。父とゾルムント。スピカも入れれば八人(五人と二匹と一柱)だ。


 油断は禁物。砦のなかには、どんな魔物がひそんでいるかわからない。

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