第45話 潜入の砦
潜入前に魔物と遭遇。戦いになれば、音や魔法の波動で、きっとなかにいるモンスターたちにも気づかれてしまう。
(どうする? 今すぐ逃げる? でも、姿は見られてしまう。ウーウさんとも合流できなくなるし)
迷っていると、低い声が暗闇からかけられる。
「まさか、そこにおられるのはレルシャさまですか?」
「ん?」
どこかで聞いたような声だ。ふりかえると、木陰に数人の人影がある。魔物のようではない。月光で見える輪郭は革鎧を着た兵士だ。
「もしかして、父上といっしょに出ていったっていう——」
「やはり、レルシャさまだ。幻ではないかと思ったが」
「その声、バサムースなの?」
「はい」
父の若いころからの腹心の部下だ。ほかに二人、兵士をつれている。
「バサムース。父上は?」
「それが、はぐれてしまったのです。私どもが
「そうなんだ」
現状で父が別の場所へ行くとは思えない。バサムースを見失ったので、自分たちだけで砦へ入っていったのだろう。
「わかった。じゃあ、ぼくらといっしょになかへ入ろう」
「かしこまりました」
「ぼくの仲間がもうすぐ帰ってくるから、ちょっと待って」
二人の兵士はアンデュロスとホルムスタイだ。
しばらくして、ウーウダリが帰ってきた。
「レルシャさま。間取り図ができあがりましたよ——って、人が増えてる」
「父上の部下だから大丈夫」
「それは幸運でしたね。人数は多いほうがいい」
レルシャがラグナランカシャ村の雑貨屋で買っておいた羊皮紙に木炭で描いた間取り図。かなり
「うーん。裏口でも六人もいるのか。戦って入ってくしかないのかなぁ? 兄上や父上を見つける前にさわぎになるのは困るなぁ」
「砦には必ず隠し通路があるものです」と言ったのはバサムースだ。
隠し通路。そういえば、姉も言っていた。魔物たちは隠し通路を使って侵入してきたと。それなら発見できる。
「ちょっと待って」
レルシャは砦をあらためてながめた。じっと見ていると、表口と裏口のちょうど中間あたりに、わずかに光るものがある。黄色い点滅は、まさに隠し通路だ。
「こっちだよ。来て」
馬たちは森の木陰に隠した。兵士のうち一人を見張りに残しておく。もしも、父がすれちがいで出てきたら、レルシャたちのことを知らせてもらうためだ。
残りのメンバーで点滅する光のもとへむかった。近づくと、石組みが妙に二重になっている場所がある。あいだに手をつっこむと鉄の輪があった。思いきり、ひっぱる。ガラガラと音がして、壁の一部が下にひっこんでいった。あいた穴のむこうは幅の細い階段だ。地下へおりていく。
「レルシャさま? なぜ、ここに隠し通路があると……?」
「ぼくのスキルだよ。早く行こう。魔物に見つかる前に」
進んでいくと地下貯蔵庫に出た。ウーウダリの間取り図では、この下が牢屋。さらに下が兄の見つけた古代の解放遺跡である。
「兄上は捕虜になったって聞いた。捕まえられてるとしたら、牢屋かな?」
「調べてみる価値はありますな」
バサムースに賛同されて、レルシャたちはさらに下の地下二階をめざす。一階ずつのフロアはそう広くない。
階段をおりたところに見張りがいた。二足歩行のワニみたいなのが鎧を着て立っている。
「ワニ兵士ですな。これは、なかなか手ごわい」
バサムースがつぶやくのはしかたない。ワニ兵士は魔物学者が分類した図鑑で言えば、強度3。つまり、人間の平均的な兵士三人ぶんの強さだ。バサムースたちだけなら、一体につき三人がかりで戦って、やっと勝てるかどうか。
でも、レルシャは違う。
「戦っていいのか?」と、ワクワクしたようすで、グレーレンが言う。
ほんとは、ここは騒動になってモンスターが集まって来ないように、できるだけコッソリ対処したい。レルシャの魔法で遠くから倒してしまうとか。しかし、本戦の前にグレーレンの力量も見てみたい気はする。
「なるべく早く、コッソリ倒せますか?」
「応援を呼ばせなきゃいいんだろ?」
「そうです」
「じゃあ、素手でやるよ」
グレーレンは靴をぬぐと、足音を立てずにワニ兵士の背後に忍びよる。そして、まず一匹めの頭をうしろからゴツン。もう一匹がふりかえったところを見事なアッパーカット。ワニは二匹ともダウンした。やはり、強い。
(生命力が3000以上なんだもんな。攻撃比率が平均の20%だとしても、攻撃力は600。攻撃解放を三回も受けてるから、じっさいにはもっと高いはず。今の感じだと、たぶん、攻撃力1000は行ってる。ワニ兵士なんて素手でノックアウトか)
しかも、獣人とのハーフなので、動きがしなやかで素早い。
「なんだぁ。もう
なんて、グレーレンはぼやいている。
「グレーレンさん。スゴイです」
「だろ?」
「頼りにしてます」
「任せときな」
威勢もいいし、笑顔が素敵だ。そのよこで、ワニ兵士の防具をはぐウーウダリ。
「レルシャさま。革鎧、手に入れましたよ。こっちは私が着ますね。もう一つあるので、レルシャさまもつけときますか?」
頼もしい仲間だ。
ゴーレムのグローブは自然にニャルニャにちょうどいいサイズまでちぢんだ。おそらく、女神の魔法がかかっていたのだ。が、ワニ兵士の革鎧のサイズは、はぎとったあとも変わらない。
「これはぼくには大きすぎます。ニャルニャにもブカブカだなぁ」
「じゃあ、かわりにこの革の盾をどうぞ。これなら、こぶりだから、レルシャさまでも持てるでしょう」
「ありがとう」
思わぬ防具を入手できた。
失神しているワニ兵士をまたいで通りすぎる。いよいよ、地下牢エリアだ。
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