第41話 解放ざんまい



 その後しばらくは平穏な毎日だった。軟禁も解かれたし、姉のゆるしも得た。解放ざんまいだ。毎日、毎日、遺跡へむかう。


「上限が決まってる初心者むけの遺跡は終わったよね。あとは逆に下限があって、強くならないと入れない。このあととうぶん、条件がないとこにチャレンジする。でさ。思ったんだけど、どうせ、最終的には全部まわって入ることになるよね?」

「うむ?」

「前の十ならび遺跡みたいに、かけ算式と足し算式のどっちをさきにするかで、最後の生命力変わってくるよね?」

「うむ。そうだな。戦闘生命力には上限がないからな」

「さきにかけ算すると、そのあと足し算しても、伸びが悪いんだよ。かける前にベースを高くしとくのが大事なんだ。だから、まず、行けるだけ足し算式遺跡を解放していこうと思う。呪文ももっとおぼえたいし、従者解放もして、そのあと、かけ算式のを解放すれば、グッと最大値があがると思うんだ」

「うむ。それがよい」

「試練があると時間かかるから、まず、試練なしのやつで、近場にまとまってるのを一日何個か解放すれば、効率いいよね」

「うむ!」


 というわけで、毎日、二つか三つ、ときには四つもの遺跡を解放した。加法で数値が伸びるものでも、ほとんどは生命力10以上が増えた。多いときには150。レルシャの生命力はどんどんあがっていく。


「それにしても、まだ黄色の光の遺跡に入ったことなかったっけ」

「黄色は精霊石解放だな」

「精霊石?」

「精霊石は古代の大気にふくまれていた魔力の結晶化したものだ。より強い解放をするとき必須になる。今のおまえにはまだ必要ないものだ」

「より強いというと、北の山肌に多い上級者むけの遺跡?」

「うむ。おもに職業解放、叡智解放、装備解放、従者解放で必要になるだろう。まれに強力な呪文の場合、魔法呪文解放でも使うかな」

「ふうん。とにかく、まだ今のぼくにはいらないんだね?」

「上限もないし、あとまわしでもかまわん。好きなときに入るがよい」

「じゃあ、とりあえず、ほかからまわろう。いっぱいあるから、一年じゃまわりきれないね。きっと、あとのほうは試練も強力だろうし」


 そのようにして、一ヶ月のあいだ、遺跡を解放しまくった。

 解放した遺跡は全部で五十七。ひと月にしてはかなりの数だ。そのうち、生命力を増やす白い光の遺跡が三十三。従者解放が十一。呪文解放が七。スキル解放が三つ。攻撃解放、防御解放、武器解放がそれぞれ一つずつ。


 才光の玉は一つの遺跡で一個から十個、まれに十五個増えた。それ以前に持っていた百十六個と、新たに得た百九十七個とあわせて、レルシャの才光の玉は三百十三個になった。


 戦闘生命力で言えば、3131だ。攻撃力は生命力との比率25%になったので、782。防御力は攻撃力の33%で258。


 スキル分化によって得た新たな技は、宝物発見、弱点発見、水発見だ。


 得られた呪文は、蘇生呪文リバイブ、気絶以外の状態異常を治すキュアラ、雷属性の攻撃魔法サンダー、光攻撃魔法フラッシュ、学者の魔法三つだ。攻撃力低下の法則。弱点強化の法則。範囲集中の法則。


 武器効果は攻撃力の四倍だ。


「そろそろ、また父上から手紙が来るね。今度も姉上が持ってきてくださるのかなぁ。また強くなったぼくを見たら褒めてくださるかなぁ」


 宝物発見スキルを得たせいか、前は扉が見えなかった遺跡でも、見えるようになったところがある。それらもまわってみたいものだ。


 しかし、その前に、もう少し残った加算式の遺跡を解放したい。試練なしはだいたい終わったから、次は試練ありの加算式だ。


 加算式が全部終わったら、いよいよ乗法式の遺跡。そしたら、ものすごい勢いで強くなる。生命力10000なんて、すぐに超えてしまう。二倍、三倍と数値があがれば、あっというまに10万……いや、100万にだってなれる。


 この村へ来てからいいことしかない。

 レルシャは浮かれていた。これからの人生、素晴らしい未来が待っているのだと考えて。成人のあかつきには兄のよこで砦を守る。伯爵家は安泰あんたい


 だが、そうではなかったのだ。このあと、レルシャは思いもよらぬ戦いのなかへ、怒涛どとうのごとく流されていく。ラグナランカシャでの日々は、その静かな予兆でしかなかった。


 数日後、父からの使いがやってきた。ただし、姉ではなかった。凶事を知らせる速馬だ。


 なかまで入れない兵士のために、村のゲートまで急いだレルシャは、父からの手紙を受けとる。そこには予想もしていなかった悪い知らせが記されていた。



『クーデル砦が敵襲を受けとされた。アラミスは捕虜になったもよう。おまえの幼なじみソフィアラも行方不明。ラランシャだけがこの知らせを持って、かろうじて帰ってきた。父はこれより兵を率い、クーデル砦へむかう。これが最後の手紙になるかもしれぬ。達者でな。レルシャ。わが愛する息子よ』



 レルシャの手から、便箋びんせんがハラハラと落ちる。

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