第38話 ゴーレムとの戦い
てっきり、巨体のゴーレムは鈍重なのだと思っていた。だから、魔法の先制攻撃とニャルニャのバックアタックで動きを封じられるだろうと。
だが、突進してきたゴーレムは、まるで猛獣だ。思っていたより数倍速い。あとずさろうとしたときには、もう目の前にいた。巨大な腕がふりおろされる。
「わッ!」
壁まではねとばされた。一瞬、意識が遠くなる。骨がくだけそう。いや、どこかの骨は折れたに違いない。急いで、レルシャは自分にハーフヒールをかける。痛みのもとがおさまった。折れた骨がつなかったのだ。でも、まだそのまわりがジンジンしている。しだいにそれもおさまってくるのは、魔法の持続効果のようだ。杖の緑の光が消えた。
(呪文三回ぶんに持続の効果がつくのか)
持続効果そのものは回数ではなく経過時間のようだ。通常の20%くらいの効果が十分ていど続く。持続のおかげで、もうフル復活だ。それにしても、あの攻撃を何度もくらうのはマズイ。さっきは失神しないですんだが、痛みで動けなくなると戦闘不能だ。
ニャルニャは大丈夫だろうか?
見ると、レルシャが倒れたあと、次はニャルニャが狙われていた。ゴーレムは直線的な動きで突進したあと、一定距離でしばらく立ちどまる。一、二、三と数えるあいだ。そのときだけスキがある。
「ニャルニャ! こっちにむかって走ってきて!」
「なー」
ニャルニャが涙目でレルシャにむかってくる。そのあとを追うゴーレム。たぶん、ニャルニャしか見えてない。うしろにレルシャがいるとは思っていないだろう。
「ニャルニャ! よこによけるんだ!」
「なー!」
ニャルニャがとびのく。
目標を見失ったゴーレムは一瞬、硬直した。
「今だ! ブリザード!」
「キュルッキュ〜。キュルッキュ〜。キュルルルキュル〜」
初めて唱えるブリザード。いつもより激しく氷柱が舞い狂うイメージ。氷柱が百、二百……三百? いや、その三倍くらいは生まれる。それがいっせいにゴーレムに襲いかかった。よこなぐりの吹雪だ。ゴーレムは完全によこ倒しになった。
「やった! 倒した!」
アイシクルの上位魔法とはいえ、ものすごい威力だった。たぶん、一撃で2000ダメージはあたえていた。
「一段階上位の魔法って、だいたいダメージが倍くらいだよね。だとしたら、ブリザードの効果は1200のはずなんだけどな。前の攻撃のダメージが蓄積してたとしても、1500までには達してないのに。ゴーレムの生命力ならあと300から500は残ってた。なんで倒れたんだろう?」
「キュルル〜。ラビリンのファイトソング効果です〜。味方の攻撃力がじょじょにあがっていきます。歌い続けるかぎり上昇するんですよ。むふふ」
ただ歌ってるわけじゃなかったのだ。ここぞというときに最大の効果を発揮してくれた。
「わぁっ! ラビリン。ありがとう。スゴイよ」
「キュルリン。ラビリン、がんばりました」
「うん。がんばったね」
「なー……」
「ニャルニャもがんばってくれたよ。ありがとう!」
「な〜!」
スピカがいい感じにしめる。
「仲間全員でつかんだ勝利だな」
すると、ちょっとなさけない感じで、ウーウダリも口をはさむ。
「レルシャさま。ほら、ゴーレムのグローブ、盗んでやりましたよ」
失神しているゴーレムから、スパイクつきのグローブをぬきとってくる。
レルシャは笑った。
「たしかに、みんなでつかんだ勝利だね」
しかも、このグローブ、ウーウダリが運んでくると、またたくまに小さくちぢんだ。
「あ、これ、ニャルニャにちょうどよくない?」
グローブといっても指はついてない。ナックルに近いので、ニャルニャの猫の手でもつけられる。爪も出せる。
「われらのなかで爪系の武器を装備できるのが、ニャルニャだけだからだ。持ちぬしにふさわしいサイズに変化したのだな」と、スピカ。
これからの戦いで攻撃力にちょっと不安の出てきたニャルニャに、今まさに必須のアイテムだった。
「よかったね。ニャルニャ。これから戦いのときは、このグローブをつけるんだよ」
「な〜」
いろいろ充実した戦いだった。生命力2000の敵に対して、互角に戦えるとわかっただけで嬉しい。しかも、これで解放のご褒美まである。
奥の四角い穴のなかへ入っていくと、思ったとおり、女神像が置かれていた。レルシャが祈ると、あたたかいオレンジの光が降りそそいだ。
防御解放。
この恩恵はのちのち強く実感するだろう。
「レルシャ! 元気だった? やっぱり、あなたがいないとさみしくって。会いに来ちゃった」
燃えるような赤い巻毛。それを男の子のように短く切って、動きやすい服で男装した美少女。そばかすはあるが、肌は白い。
七歳年上の姉、ラランシャだ。
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