第37話 いよいよ、ゴーレム戦



 戦闘職業は生まれつき決まる。自分で選べるわけではない。レルシャは賢者だからよかったが、なかには、こんな職業イヤだと思う人もいるだろう。

 戦闘職業の適性は日常生活の職業の適性にもなるのだが、必ずしもみんなが同じ職についているわけでないのは、おそらく、そのせいだ。


「盗賊って、何ができるの?」

「罠解除とか、解錠とかですね」

「戦闘中は?」

「敵のアイテムを盗みます!」

「……」

「……」


「わかりました。じゃあ、ゴーレムから盗めるものがあったら盗んでください」

「かしこまりました」


 すると、スピカが大声で怒鳴る。レルシャは遠慮したというのに。


「レルシャよ。なぜ、言ってやらんのだ! そんなまったく使えん技のくせに、よくそれでレルシャが遺跡に入るのをジャマできたものだな!」

「スピカ……」

「ぜんぜん使えんではないか! 昨日の沼地の遺跡でも見届けるなんて言っておいて、ほんとは戦えんだけではないかー!」

「あ、ほら、スピカ……」


 ウーウダリの表情がどんどん沈んでいく。が、ひらきなおった。なかなかいい性格だ。


「そうですよ! だからこそ、レルシャさまが危険だと思ったんですよ。だって、最低能力値しかない、かよわいお坊ちゃんだと聞いてたから! 解放でこんなに強くなるなんて、不公平にもほどがあります。非常識なんですよ!」


 ほこさきがこっちにむかってきてしまった。


「ウーウさん。ぼくのこと、そんなふうに思ってたんですね……」


 ウーウダリはハッとして口をつぐむ。

「あ、いえ。失礼しました。とにかく、盗賊職だからといって、まったく戦えないわけじゃありません。装備品はナイフですが、ゴブリンや子どもガーゴイルくらいなら倒せますよ」


 ガーゴイルにはベビー、子ども、成長したガーゴイルの三種類いる。大人のガーゴイルはかなり手ごわいが、子どもガーゴイルなら、まあまあ強いていど。つまり、それを倒せるウーウダリも、まあまあ強いというわけだ。


「じゃあ、ゴーレムと戦いましょう」


 あらためて、ゴーレムとむきあう。とても大きい。見ため、岩そのものだ。こんなのとどうやって戦えばいいのか?


 レルシャがまともに戦ったのは、じつはほんの数回だ。この村に来るまで戦闘経験がなかった。狩小屋での事件は一方的に襲われただけだし。


 村に来て、スライム八体と、カカシ風ゴーレムと、昨日のゴブリン。それしか戦っていない。スライムはニャルニャが倒してくれた。昨日のゴブリンはけっきょく、あっちが逃げまわっていただけ。まともに戦ったのはカカシ風ゴーレムだけという現実。


 大きな敵に威圧感をおぼえる。


「マスター。ラビリン、歌いますね?」

「え? うん」


 そういえば、ラビリンといっしょに戦うのも初めてだ。数値はものすごく高いが、どんな職業なのか聞いてなかった。


「キュルッキュル〜。ピルッピル〜。キュルッキュル〜。キュルルルル〜」


 とても気持ちよさそうに歌っている。


 スピカが説明してくれる。

「ラビリンの玉は薔薇色だから、吟遊詩人か踊り子だろう。またはその両方だ。歌って踊れる音楽家は多い」

「ウーウさんをまわしげりで倒したけど?」

「踊りの一種であろう」


 なんだか、せっかくの高い能力値がムダな気もするが、まあいい。


「じゃあ、ニャルニャ。ぼくが魔法で攻撃するから、ゴーレムがひるんだすきに背中から攻撃して。一回攻撃したら、すぐに逃げるんだよ?」

「ニャ」


 やっぱり『了解』のときだけ鳴きかたが違う。


 一番生命力の高いレルシャが正面に立ち、ニャルニャが背後にまわる。ふだんのニャルニャは動きがにぶいが、戦闘中はすばやい。背中からの攻撃なら、まず反撃をくらう心配はない。


「プチファイア!」


 真正面から放つが、あまりきいているふうがない。それはそうだろう。このサイズのゴーレムなら、戦闘生命力は少なくとも1000はあるはず。いや、もっとだろうか? 1200か1500。ゴーレム戦では兵士十人がかりだと聞く。だとしたら、大人十人と同等で1800から2000……。


(ぼくの倍だ。魔法で遠隔攻撃すれば、やれないことはないね。ちょっとずつ生命力けずってくしかない)


 プチファイアではあまりにもダメージが低い。次はアイシクルだ。


「アイシ……いや、待てよ? なんか、魔法効果持続してないよね? スピカ?」

「まず魔法を唱える前に持続魔法を使わねばならぬぞ」

「そっか!」


 攻撃魔法が持続するなら、効果があがる。


「魔法持続の法則!」


 魔法杖がグリーンに光った。これが魔法を持続させる効果なのか。


「アイシクル!」


 空中にとつじょ、百もの氷柱が生まれ、いっせいにゴーレムを襲う。今度はきいている。ゴーレムが咆哮ほうこうをあげた。しかも、氷柱はゴーレムの体に刺さったままだ。


 そのすきにニャルニャのネコパンチ! やわらかい敵なら、かなりの打撃のはずだが、ゴーレムはこれに無反応だった。


「なんか、ふつうの半分くらいしかダメージがなくない?」

「そこが防御力だな。あらゆるダメージが半減されていると見てよかろう」

「半減か……」


 ニャルニャの攻撃力は61だから、半減であたえられるダメージは30。

 レルシャのアイシクルなら、魔法攻撃力220の杖効果で三倍660のはずだが、その半分で330……しかし、そのわりには大打撃のようでない。


「あ、そうそう。ゴーレムに属性攻撃はさらに半減だからな」と、今さら、スピカはうそぶく。


「うーん。じゃあ、ぼくの魔法攻撃は半減の半減で165しかダメージあたえてないんだ」


 それでも、十発あまり打てば倒せる。ムチャな相手ではない。


(ウーウさんはさっきからゴーレムのまわりウロウロしてるだけだし、ラビリンはずっと歌ってる。実質、二人なのは痛いなぁ。ニャルニャにちゃんと装備品を持たせてあげとくんだったな)


 刺さったままの氷がじわじわとゴーレムの生命力をけずっていくようだ。が、それもまもなく消えた。おそらく、今のアイシクルの総合ダメージは200ていど。


 すると、そのときだ。

 とつぜん、ゴーレムが突進してきた。

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