第34話 南の花畑遺跡



 翌日は花畑にある遺跡だ。紫に光り、解放すると魔法呪文が手に入る。


「どんな魔法かなぁ。すごいのだといいなぁ。兄上の炎の剣や姉上の風嵐みたいな強力な攻撃系がほしいなぁ」


 今日もグランデに乗って、ゆっくり並足で移動する。レルシャのほか二匹のホプリンが同乗しているので、急いでは走れない。ホプリンがものすごく軽いのが救いだ。


「生まれつきのスキルは強力なものが多いからな。魔法とは違う」と、スピカが言う。

 すると、ウーウダリも口をはさんでくる。

「戦闘特技は一人につき一つですからね。なんとか、似たよう力を使えないかと研究されて、人工的に作られたのが魔法呪文だという話ですね。つまり、どうやっても魔法は特技の劣化版なのです」

「そうなんだ」


 ということは、今ある魔法呪文は過去に誰かの持っていた特技を模倣もほうしたものなのだ。

 一番の違いは、スキルには戦闘精神力マジックポイントを使わない。魔法には使う。なので、魔法には使用できる限界数がある。

 では、特技は無限に使えるかと言えば、そうでもない。大技ほど、使用したあと、次に使えるまでの時間がかかる。いわゆるクールタイムだ。レルシャみたいに攻撃系でなければ、つねに使えるものもあるのだが。


「南側は花畑があるし、川も流れててキレイだよね。昨日の人魚もいるかな? のんびりピクニックに来てもいいなぁ」

「ラビリン。お花畑、大好きです」


 話しているうちに遺跡にたどりついた。花畑のまんなかに、ぽつんと遺跡が建っている。周辺にもいくつか遺跡はあるが、呪文解放遺跡は一つしかない。


「わりと大きな遺跡だよね。小さな家くらいはある」

「私は入れないんですね?」と、ウーウダリ。

「従者はダメって条件だから。ニャルニャとラビリンも待っててね」

「なー……」

「ラビリン、早く活躍したいです……」


 泣きつかれても、ここはつれていけないのだ。

 扉に手をあてる。青い光が点滅している。


「あれ? 赤い点滅はないけど、青いのがピコピコ」

「叡智系の試練よな」

「ああっ、やっぱり。前にもどっかで見た気がする」

「スキル解放遺跡であろう」


 迷宮の謎解きと、女神像の二択だ。


「わかった。ああいう謎かけがあるんだ。覚悟しとく」


 いざ、扉を押してなかへ入る。従者は誰も入ってこれないが、遺跡のなかは明るい。見ると、スピカは肩に乗っていた。


「スピカは従者じゃないんだ」

「われは案内人だからな」


 たしかに、明るいのは助かる。おかげで遺跡のなかが見える。

 この遺跡は外から見たとおりの大きさだ。同じ広さの部屋が三つよこにならんでいた。最初に入ってきたまんなかの部屋に祭壇があり、女神像がまつられているのだが、まだ光ってない。


「えーと、左右の部屋には……ん? こっちには燭台しょくだい?」


 台座で支えられた背の高い燭台だ。反対側の部屋にはよく似た形だが、燭台の受け皿が大きくなったようなものが立っている。


「うん? なんだろう? これ」

「氷と書かれているな」


 壁の古代文字をスピカが示す。スピカはなぜか今日、フクロウっぽい。叡智系遺跡だからだろうか?


「氷かぁ。なんだろう? この受け皿に氷を載せればいいのかな?」


 試しに『プチアイシクル』を唱える。頭のなかのイメージは、冬場、氷室ひむろにとっておいた氷を夏になってひっぱりだし、家族や兵士たちみんなと食べるハチミツがけのカチ割り氷だ。お皿に載せるのにちょうどいいサイズ。


 カランと受け皿に氷のかたまりが落ちる。成功だ。アイシクル系の呪文だから、初めてでも唱えられたのだろう。

 受け皿に氷が載ると、部屋全体が淡く光った。


「なんだろう? もう一つの部屋にも似たようなのあったよね。あっちは燭台だった」

「あそこの壁にも古代文字が書かれていたな」

「もう一回、戻って見てみようよ」


 歩きだしたときには氷は溶けだしていた。魔法でできた氷なので、本物ではない。本来、攻撃が当たれば消えるはずのものだ。もって数分である。


 のんびり小走りで燭台の部屋へ移動する。やっぱり、何度見ても、燭台は燭台だ。受け皿が氷の部屋より小さく、中心に火をつけるための芯がある。


「燭台……炎? もしかして?」


 さっきの部屋で受け皿に氷を載せるのが正解だったように、ここでは火を燭台にともすのでは?


 思ったとおりだ。スピカが壁の文字を読む。

「火と記されている」


 やっぱり、そうだ。燭台に火をつけるのだ。とすると……。


「プチファイア!」


 プチファイアはもうイメージがかたまっているので、かんたんに炎が生まれる。部屋がパッと明るくなった。プチファイアの火だけではない。部屋が輝いている。


「これで何か起こるの?」

「うーむ?」


 ふりかえると、となりの部屋からも光が放たれていた。が、それはかえりみた瞬間に消えてしまった。


「あれ? 今、むこうも光ってたのにな。なんで消えたんだろう?」

「どうやら、中央の部屋と、左右の部屋の光は連動しておるな」

「そっか。むこうの部屋の氷が消えてしまったんだ」


 氷が消えたから、中央の部屋の光も消えた。でも、炎の部屋の光はまだ明るい。


「左右の部屋の魔法が光をともしてるあいだだけ、まんなかの部屋も光るってことだね。氷と炎が両方あるときだけ」


 見れば、プチファイアの炎ももう消えかけていた。

 なんとか両方を同時に保てないものだろうか?

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