第33話 第二の職業解放



 広間の床にベロを出して倒れるゴブリン。目をまわしている。


「わーい! やったよ。本体を倒した!」


 すると、広間の奥が明るくなった。壁ぎわに女神像がある。いつにも増して大きい。


「すごく大きいなぁ。ぼくより大きい」

「レルシャさま。さっきので試練は終わりですか? だったら、解放したんですよね?」

 興味津々きょうみしんしんのウーウダリに、レルシャは犬をしつけるように待てをする。


「ここで女神さまに祈るんだ」


 ひざまずくと、女神像の光がレルシャを包む。頭のなかにちょくせつ文字が浮かんできた。一つは学者。もう一つは魔法使いだ。


「スピカ。学者と魔法使いって字が頭に浮かぶんだけど」

「どちらか一つを選ぶのだ!」

「どっちでもいいんだね?」

「好きなほうを選ぶがよい」


 魔法使いは賢者の下位職業だ。攻撃魔法の威力に関しては賢者より強いかもしれないが、おぼえられる魔法は賢者のほうが多い。あらためてつきたい職業でもない。


「学者って、じっさいに戦闘ではどうなるの?」

「古代語読解などの探索に役立つ魔法をおぼえられるようになる。それに……」

「それに……?」


 なぜか、スピカはものすごく嬉しそうに笑った。説明はしてくれない。よくわからないが、賢者とできることがかぶっている魔法使いより、新しい魔法をおぼえられる学者のほうがいい。


「じゃあ、学者でお願いします!」


 頭のなかの魔法使いの文字が消え、学者の文字が大きくなる。レルシャを包む光が強まり、何かの力が解放されていく。


 光がやんだとき、いつものように遺跡の外に立っていた。できれば歩道まで戻っていればよかったが、まだ浮島だ。もう一度、水泡の舟に乗り、ニャルニャたちのところまで帰る。


「な〜!」

「おかえりなさいませぇ。マスター。ラビリン、いい子にしてましたよ」


 退屈そうに歩道にすわって泥沼をながめていたホプリン二匹が左右から抱きついてくる。


 ウーウダリはしきりにうなっている。


「まさか、遺跡に入れるなんて思ってもなかったですよ。どれもこれも飾りで造られた古代の遺物にすぎないと思ってたので。うーん……ほんとに解放なんてできるのか。だとすると、これだけ解放遺跡があるこの村はいったい……」


 ディーンも考えこんでいる。

「坊主。一つ聞きたいのだが、遺跡に入っても、仲間には何も利点はないのか?」

「従者になってくれたら、従者解放遺跡でちょっとずつ強くなれますけど。ただ、ぼくの従者のあいだだけなんですよね」

「従者か。グレーレンがなんて言うかな……」

「ディーンさん? なんですか?」

「いや、なんでもない。じゃあな。また鍛えたくなったら来るといい。もっとも、坊主にはもう、おれの訓練は必要ないかもな」


 ディーンは手をふって去っていった。


 ウーウダリが不満をもらす。

「あの人、ほんとにレルシャさまにだけはしゃべるんですね。ほかの村人と話してるとこ見たことないですよ」

「でも、ほら、いい人だから。レンコン美味しかったよ」

「まあ、うまかったですけどね。今日はもう帰りましょう。日がかたむいてきました」


 ディーンの家にあずけておいたグランデに乗って、神殿まで帰る。その道すがら、ウーウダリがブツブツ言っていた。


「従者かぁ。従者になれば、私も強くなれるんですね。どうしようかなぁ」

「ウーウさんは強くなりたいの?」

「私が冒険者だったころ、どうしても制覇したかった遺跡があるんですよ。ただ、そこまで行きつく実力がなかったので、あきらめたんですけどね」

「ふうん」

「それはそれ。とにかく、明日からも私はついていきますからね。今日の遺跡は相手がゴブリンだったから危険はなかったですが、急にガーゴイルなどの強いモンスターが出てくるかもしれませんしね」

「う、うん」

「それにしても職業解放ですか。私もさっきの遺跡でできないですか?」

「扉が見えてる人にしか効果ないんだって」

「残念」


 たしかに新しい職業を得られるなんて、ものすごいことのような気がする。が、今のところ、学者がどんな魔法を使えるのかわからない。それに、魔法は自分で学ばないとおぼえないのだ。これから、じっくり勉強しないといけない。


(そういえば、魔法呪文を解放できる遺跡があるんだった。紫に光る遺跡)


 だから、南の花畑にある遺跡へ行こうとしていたのだ。呪文が封印されている。従者が入れない条件だから苦戦するかもしれないが、それでも、挑戦する価値はある。


 明日こそは花畑の遺跡へ行こうと、レルシャは思う。

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