六章 最強をめざして

第31話 浮島の遺跡



 問題の浮島の近くに来た。レルシャ、スピカ、ニャルニャ、ラビリン、ウーウダリ。そして、なぜか、ディーンまでついてきた。


「あんた、人見知りのくせに、なんでついてきたんだよ」

「……」

「無視かい!」


 あわてて、レルシャは二人のあいだに入る。

「まあまあまあ。ウーウさん。落ちついて。ウーウさんって、ディーンさんにだけ乱暴な口調になるの、なんでですか?」

「えっ? そんなでしたか? 申しわけありません」


 このメンバーでほんとに大丈夫なのだろうか? 不安は残るがしかたない。


「じゃあ、水泡の舟っていうのを作ってみよう。どうしたらいいの?」

 これにはスピカが答える。

「笛なのだから、吹いてみたらよかろう」

「なー」

「そうだね」


 ペンダントになっているので、首にかけていた巻貝をにぎりしめる。


「行くよ?」

「うむ」

「なー」

「マスターレルシャ。早く、早く。ラビリン、楽しみすぎます」


 ワクワクしつつ、貝のさきっぽに口をつける。思いきって、息を吹きこんでみた。


「スー」


 なんともマヌケな音がする。


「……マスター。ヘタクソですね」

「なー」


 ホプリンたちの視線が痛い。

 しかし、その瞬間だ。泥沼の底からポコポコと無数の泡が浮かびあがり、みるみるうちに、それは舟の形になった。たくさんの水泡がより集まってできた舟だ。


「ほんとに水泡の舟になった!」

「おお、伝説どおりだ。おれも初めて見るよ」と、ディーンの声もいくらかはずんでいる。

 しかし、ウーウダリは慎重だ。

「でも、これ、せいぜい三人までしか乗れないんじゃないですか?」


 そう言われてみれば、全員乗るには少し小さい。ディーンがいなければ、ホプリン二匹は小さいので、ウーウダリがいたとしても、全員乗れたかもしれないのだが。


「誰か残るしかないんじゃないかな」

「なー、ななー、ななな、なぁ……なな」

 スピカの通訳。

「ほんとのこと言うと、お水は苦手だにゃー。水、怖い」


 やっぱり、ニャルニャは猫ホプリンだ。猫と同じ習性を持ってる。


「じゃあ、ニャルニャはここで待っててね」


 ニャルニャがうなずく。

 それでも、まだ多い。


「あっ、そうだ。ここって、生命力2000までの人しか入れないよね。それって、従者もなのかな?」

「うむ。もちろんだ」と、スピカが言うので、レルシャはラビリンを見た。


「ラビリンの生命力2500だよね?」

「ラビリン強いのです——って、ああー! 条件超えちゃってるー! キュルル……」

「ラビリンもここで待っててね」

「キュルン……早く、マスターのお役に立ちたいのに……」


 涙ぐんでくれるとこが可愛い。ラビリン、ちょっとおしゃべりだが、やっぱりホプリンは忠実だ。一途でけなげ。


 これでなんとか三人、舟に乗れた。レルシャ、ウーウダリ、レヴィラディーンだ。スピカはレルシャの肩に乗っていればいいので、数に入っていない。もしもなかで戦闘があれば、ちゃんと連携がとれるのか不安なメンバーではあるが。


 水泡の舟は儚げで、すぐにこわれてしまいそうだが、意外と頑丈だった。オールでこいでるわけでもないのに、目的地にむかって水上をスイスイ進む。


「浮島なんだよね? 地面がグラグラしないかなぁ」

「うむ。定期的に浮いたり沈んだりするのだぞ」

 スピカが言うので、よけい怖い。

「ぼくらがいるうちに沈まないよね?」

「数百年単位だから問題なかろう」


 数百年に一度、現れる遺跡。もしかしたら、ここに来られて、すごく幸運だったかもしれない。


 上陸すると、すぐ目の前に遺跡がある。というより、遺跡のほかは何もない。祠よりは少し大きいので、大人のウーウダリやレヴィラディーンでもなかへ入れるだろう。


 扉に手をあてると、赤い光が点滅した。ちなみに遺跡じたいの色は銀色だ。ふつうの白い光より金属的。ギラギラ輝く。


「まぶしい遺跡だなぁ。銀色は初めてだね」

「銀はな。職業解放遺跡だ」

「職業? でも、それは生まれつきの才能で決まってない?」


 スピカは得意げに説明する。


「もちろん、最初の戦闘職業は生まれ持つ才能で決まる。だが、それに近い職業なら、そこそこの適性があるものなのだ。遺跡ではそれを解放してくれる」

「そうなんだ!」


 そう言えば、レルシャの才光は最初に青、緑ときて、金色に変化したのち、銀で定まったと父から聞いた。ということは、賢者のほかにも、学者、魔法使い、剣聖に適性を持っている。ただ、賢者の才能がもっとも高かったのだろう。


「兄上は戦士だけど、才光の玉には金色も出てきた。剣聖の才能もあるんだ。言わば隠れた適性だね」

「そうした、近いところの職業から解放を得られる」

「うわぁ、剣聖……憧れの剣聖にもしかして、なれるの?」

「賢者のすぐ近くなら、学者が魔法使いであろうな。だが、職業は輪になってつながっておる。たくさんの職業を学べば、いずれ、剣聖にもたどりつけるであろう」


 レルシャの心に希望があふれた。あらゆる魔法を使いこなせる賢者も、もちろん嬉しい。しかし、剣と魔法の両方を駆使する剣聖は職業のなかでも最強だ。

 もしなれたら、どんなに素晴らしいだろう。

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