第30話 ディーンの特訓その二
ついでに小川で泥を落とし、びしょぬれになってディーンの家の前まで戻ってくる。ようやく、レヴィラディーンは仕事を終えていた。
「どこへ行ってたんだ。ちょうどいい。いっしょに昼食を食べないか? 坊主」
「いいんですか?」と言ったのは、レルシャではない。ウーウダリだ。とたんに、ディーンは無言になる。
「……」
「……」
二人のあいだに稲妻が走った。
「やっぱり、無言かーい!」
「……」
「そっぽむくなー! 人見知りちゃんかよ?」
「……」
「なんか言えやー!」
「……」
二人の相性が悪いことだけはわかった。
「まあまあまあ。ウーウさん、落ちついて。ディーンさん。お昼ご飯、いただきます。ありがとう」
「おお、遠慮するな。ほりたてのレンコンもあるからな」
レルシャとはふつうに話すディーン。
「わーい。レンコンって、ぼく食べたことない」
「素揚げにして塩ふって食うんだ。うまいぞ。みじん切りを野菜炒めに入れてもいい食感になる。そいつをキノコといっしょにパイにつめても美味だ」
「おいしそう」
狼一家にごちそうになった。ふかした芋と刻んだレンコンを丸めた団子と、キジ肉のミンチのスープが絶品だ。ディーンとウーウダリはひとことも口をきかないが、奥さんや子どもたちはにぎやかで楽しい食卓だった。
「ディーンさん。さっき待ってるとき、泥沼にハマった人魚を助けてあげたんですよ。そしたら、お礼にって、この貝の笛をくれました」
「村に人魚がいるという言い伝えは聞いたことがある。まれに子どもの前には姿を見せるらしい。人魚の笛はたしか、水泡の舟を作ってくれるんじゃなかったかな?」
「水泡の舟? なんですか? それ」
「さあ。そういう昔話さ」
水泡の舟。もしかして、それで水上を移動できるだろうか? あとで試してみたい。もし、舟になるのなら、沼地の奥にある浮島の遺跡に行くときに利用できる。
昼食のあと、ディーンの訓練を受けた。この前のゴーレムと一対一で戦ったのだが、敵も格段に強くなっている。それはそうだ。レルシャの戦闘生命力が1161になっているのだから。試しに一発、プチファイアを放つ。効果はあるものの、ゴーレムはすぐに立ちあがってくる。このままじゃ、らちがあかない。
「ディーンさん。アイシクルって、どうやって打てばいいんですか?」
「魔法はイメージだ。ファイアと同じだよ。敵の全身を凍りつかせてやるって気持ちだ。舞いちる雪が吹きつける。氷の刃だ」
「氷の刃……アイシクル……
シャルムラン地方は国境にあるため、真冬はかなり雪がつもる。屋敷の軒下に長く伸びていく氷柱を窓からよくながめた。晴れ間になると、氷柱を折って、それを短剣がわりに遊んだものだ。
(氷柱……氷の結晶がだんだんに大きくなって、長く伸びていく……)
イメージがふくらんできた。
「今だ! アイシクル!」
氷の刃が空中に凝って、ゴーレムに襲いかかる。でも、氷柱というには小さい? また、プチになってしまったのだろうか? と思った瞬間、小型の氷柱が次々にできて、ゴーレムをかこんだ。雨あられと襲いかかる。たぶん、百個以上の氷がわきあがっていた。
「スゴイな。坊主。もしかしたら、氷属性と相性がいいのかもな。今のはアイシクルっていうより、ブリザードだぞ?」
「ブリザード……」
「アイシクルの上位呪文だよ」
でも、精神力の疲労度から言えば、大きな魔法を使った感じではない。マジックポイント5も使ったかどうか。
(そうか。戦闘生命力が千超えたぶん、攻撃力もあがったんだ。それに南の丘遺跡で魔法攻撃力が二倍になったから。今だと、ぼくの魔法攻撃力220。それも杖の効果で威力が三倍くらいになるんだ)
つまり、600以上のダメージをあたえられる。今ならプチファイア一発で、ほとんどの魔物を倒せる。ゴーレムの生命力はレルシャに準じているから、一撃では倒れなかったのだ。
ぽかんとしているのは、ウーウダリだ。
「レルシャさま。いつのまに、そんなに強くなられたのですか?」
「だから、遺跡のおかげだよ。もっともっと強くなれるんだよ」
「そうですか……」
やっとほんとに納得してくれたようだ。と思ったら、まだだった。
「わかりました。では、次の遺跡、私もなかまでついて行かせてください」
「言っとくけど、いっしょに入ってきても、従者が解放できるわけじゃないよ?」
「それはかまいません。あなたの身に何かあると困るんですよ。私だってこの若さで縛り首になりたくはないですから」
まあ、その気持ちはわかる。
「じゃあ……そうだ。水泡の舟っていうのが使えるなら、ちょうどいいから湿地の奥にある条件つきの遺跡に行こう。あそこは生命力が2000以下までじゃないと入れないから。別の遺跡で二倍になってしまったら、もう条件超えちゃう。どっちみち、そろそろチャレンジしとかないと」
まだ日暮れまで数時間はある。近くまで来ているから都合がよかった。
「湿地ですか。水泡の舟なんて、ほんとに現れるんですかねぇ? ただの言い伝えじゃありませんか?」と、ウーウダリは懐疑的だ。
「まあ、やってみようよ」
というわけで、湿地の奥の浮島へ出発だ。
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