第21話 どっちが本物?



 レルシャは迷った。果たして、どちらを選べばいいのか?

 たとえまちがったとしても死ぬわけじゃないし、何かを失うわけでもない。ただ解放の機会を一度のがすだけだ。それでも、惜しいと思うのが人情だ。


(どうしよう? 右? 左? いや、やっぱり右かな?)


 ドキドキしながら見つめていると、なぜか、左側の像の頭上がピコンピコンと赤く点滅して見えた。怪しく思い近づく。さらに点滅が激しくなる。


(なんだろう? このピカピカ)


 もしかして、像の正否に関係している?


 試しに左側の像の前で言ってみる。


「あなたは本物の女神像ですか?」


 ピコピコがいっそう激しくなった。

 今度は右の像の前で同じことをする。なんの反応もない。


「ねぇ、スピカ」

「うむ」

「スピカって聖獣なんだよね?」

「うむ。神々しいであろう?」


 反応なし。


「ところでさ。昨日のおやつのとき、スピカ、ハーブケーキの最後の一個、こっそり食べたよね?」

「な、何を言うか! そのような、さもしいマネはしておらぬぞ。聖獣をいやしいように申すな」


 ピコピコピコピコ——


 まちがいない。嘘をついている人の頭上に赤い光が点滅する。レルシャとニャルニャとスピカで誰が最後の一個を食べるか相談しているときに、サッと丸飲みするスピカをレルシャはしっかり見ていたのだ。


(ていうことは、ぼくってもしかして、嘘が見ぬけるんじゃ?)


 発見だ。たぶん、昼間の遺跡で得た解放は、嘘つきを発見できる技だったのだ。


「赤い点滅は嘘ついてる証。ということは、右側が正しい女神像だ!」


 よかった。あのまま左側を選んでいたら、この遺跡での解放をのがすところだった。

 レルシャは右の像の前に手をあわせた。今度こそ光がレルシャを包み、それが薄れると祠の外に立っていた。


「やったー! 何かわからないけど、また特技が増えた」


 きっと今度こそ隠し通路かトラップ発見などの探索系だ。宝物の発見能力でもいいし、敵を発見するのも戦闘前に準備できるので便利だ。


「ウーウさん。お待たせ。もう終わりましたので、神殿に帰りましょう」

「……」


 祠から出るとき、まわりからはどんなふうに見えているのか。ウーウダリはまだポカンとして、レルシャを見つめている。


「……レルシャさま。遺跡に入りましたよね?」

「うん。入ったよ」

「それで、出てきたんですよね?」

「うん。出てきた」

「ハッ! そうだ。この村に来た初日から、あなたは妙なこと言ってましたよね? 遺跡が光って見えるとかなんとか。もしかして、あなたは遺跡の入口が見えるんですか?」

「うん。見えるよ」


 しばらく呆然と立ちつくしたのち、ウーウダリはコテンと尻もちをついた。


「……それも、複数見えている?」

「うーんとね。三百くらい」

「そんな、バカな……」

「ぼくのスキルは解放遺跡の扉を発見するんだ。この魔法杖もほんとは武器解放の遺跡から持ってきた」

「……」


 ウーウダリは頭をかかえる。

「しかし、遺跡のなかには強い魔物がひそんでいると聞きます。これは神殿長に報告ですね」

「待って。ナイショにしてよ。ぼくは強くなって、父上や兄上の手助けをしたいんだ」

「そうは言っても危険すぎます。今まではたまたま運がよかっただけですよ」


 それは言える。スライム八体にかこまれたときは死ぬかと思った。ニャルニャがいてくれたのはぐうぜんだ。迷宮の遺跡だって、迷い続けていたら、ほんとにあのなかで餓死がししていたかもしれない。


「でも……」

「とにかく、今夜はもう遅い。いったん帰って休みましょう。どうするかは明日になってから決めます」


 やっぱり思っていたとおりになってしまった。



 *



 翌朝。

 ウーウダリは神殿長に報告したらしかった。ただし、神官やほかの僧侶たちに知らせると、レルシャの能力を悪用しようとする不心得者が現れるかもしれないという配慮から、このことは神殿長とウーウダリだけの秘密にされた。


 そして、レルシャが勝手に外に出ていかないように、部屋には外から鍵がかけられた。食事やお風呂、散歩など、部屋から出るときは必ずウーウダリがついてきた。これでは解放遺跡に行けない。


「なんでジャマするの? ぜんぜん危険なんてないのに。遺跡の入口はそこにふさわしい戦闘生命力に達してないと入れないんだよ」

「それでもいけません。レルシャさまにもしものことがあれば、我々の責任です。あなたのお父上に顔向けできなくなります。お目つけ役の私は確実に打首でしょうね」

「う、うう……」


 それはまあ、父はレルシャを溺愛している。家から出したのもレルシャの安全を思ってだ。レルシャが大ケガしたり、もしも万一にでも死んでしまったりしたら、相応の罰を神殿長やウーウダリにあたえるだろう。強くはなりたいが、そのせいで誰かに迷惑をかけるわけにはいかない。


(やっと遺跡めぐりのコツもおぼえたし、杖を手に入れて、いっしょに戦ってくれるニャルニャがいて、案内人のスピカもついてる。低い生命力で入れる遺跡なら、試練で出てくるモンスターも弱いから、ぜんぜん心配ないのに)


 これからってときにストップがかかってしまった。なんとかならないものだろうか?

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