第20話 雑貨屋裏の遺跡



 が——

 ふりかえると、立っていたのはウーウダリだった。


「こんな夜遅くに何をしているんですか?」

「えっと……」

「やっぱり、雑貨屋に盗みに入る気じゃ?」

「違うよ」

「じゃあ、帰りましょう」

「えっと……」


 困った。こうなれば、ちょっとのあいだ気絶しててもらうしかないだろうか? おぼえたばかりのプチファイアの使いどき?

 考えていると、雑貨屋の窓に明かりがついた。


「……そこに誰かいるのか?」


 最悪だ。キースティングスが起きてきたのだ。

 あわてて、レルシャが草むらに身をふせると、キースティングスはアクビをしながら部屋のなかへ戻っていった。また窓が暗くなる。


「ほら、やっぱりおかしいじゃありませんか」と、ウーウダリ。笑ってないときの彼は目がパッチリひらいて、ちょっと怖い。

「ニャルニャ。ウーウさんをひきとめて」

「なー!」

「わっ、ちょっと!」


 ニャルニャは見ため可愛いけど、力はとても強い。しがみつかれたウーウダリは動けない。そのすきに、レルシャは走った。木々のあいだへ入ると、まもなく遺跡が見える。以前ここに調べに来たときは、キースティングスはいなかった。あのときに解放してしまえばよかった。


 急いで遺跡のなかへとびこむ。

 ここも小さな祠タイプだ。青い光だから、叡智解放。昼間の坂下の遺跡のように迷宮になっているかも……と覚悟をしていたにもかかわらず、違っていた。古代文字の刻まれた壁のせまい一室。祭壇があり女神の像がまつられている。


「あれ? もしかして、なんの試練もないタイプ? ラッキー」

「いや、安心するのはまだ早い。見よ」


 キツネっぽい姿でスピカが示すのは、祭壇に置かれた二つの像だ。どちらも女神像に見える。瓜二つだ。


「ん? 変だね。なんで二つなんだろ? いつもは一つだよね」

「ふむふむ。どちらか一つ、正しき女神像に祈れ。さすれば解放はあたえられん——と記されておる」


 たしかに祭壇にバカデッカく古代文字が刻まれている。スピカが古代文字を読めて助かった。


「つまり、どっちかが偽物なんだね?」

「そうなるな」

「本物に祈らないと解放されないんだ?」

「そうなるな」

「これって、謎かけ試練だよね?」

「そうなるな」

「スピカ、やる気ある?」

「そうなる……えーい、ウルサイわい」


 試練がない遺跡の挑戦権は一度きり。でも、試練がある遺跡は二回だ。


「二回チャレンジできるってことは、もし失敗しても、一回めとは別のほうを選べば正解するよね?」

「……」


 なぜか、スピカは何も言わない。いったい、なんだというのか? しかし、この方法なら必ず二回で正解にたどりつけるはずだ。


 レルシャはそう算段した。不遇な子どもだったので、そのぶん、慎重に考えるクセだけはついた。この方法でまちがってはいない。

 自分に近い右側の女神像の前にひざまずくと、両手を組んで祈る。これが正しい女神像なら、レルシャは解放される。が、女神像は光らなかった。そのまま、祠の外に追いだされる。


「ああっ、違った。左が正解だった!」


 でも、これでもう当たりはわかった。次は必ず成功させる。と思うが、すぐそばからウーウダリの声がする。


「あっ! レルシャさま! こんなところに。さあ、帰りましょう」


 腰にニャルニャをひっつけたまま、なんとか、ここまで移動してきたらしい。

 レルシャはため息をついた。これだともう遺跡に入るところを見られずにはすまない。


 今はあきらめるべきか?

 でも、キースティングスの目を盗んでここまで来るのはやさしくない。その上、この調子だと、今後、ウーウダリの監視の目が厳しくなるだろう。レルシャが雑貨屋の商品を盗みにきたと勘違いしているからだ。もうこうなったら、この遺跡だけでも制覇してしまっておくべきだ。


「レルシャさま! 帰りますよ。このさきは崖なんですから、逃げてもムダです」


 レルシャが逃げるためにこっちへ来たと思っているようだ。


「ウーウさん。ぼくは逃げるつもりじゃありません。ましてや盗みなんてしません」

「じゃあ、なんだっていうんですか?」

「こうするんです」


 レルシャは祠の扉に手をあて、入口の穴にかがんで入った。ウーウダリのポカンとした顔が閉ざされた扉で見えなくなる。


「さて、じゃ、左側の像を選べば正解だね」


 このあと、出ていってからのことを考えると気が重い。ウーウダリに遺跡めぐりをしているとバレてしまった。こっぴどく説教されるだろうか? それとも、神殿から出してもらえなくなる?


 まあ、とにかく、解放がさきだ。左側の女神像の前へ行き、レルシャがひざまずこうとすると、スピカがとめる。


「ほんとに、そっちでよいのか?」

「だって、さっき右側は失敗したから」

「この手の謎かけは、つねに答えが同じ場所にあるとはかぎらぬぞ? 誰かが入るたびに像の位置が移動している可能性がある。うむ」

「だ……だからさ。そういうのはさきに言ってほしいんだよね」


 もしそうだとわかっていれば、さっき、もっと慎重に選んだのに。


 スピカの言うとおりだとしたら、さっき右側がまちがっていたから左側でいいというわけじゃない。つねに、どちらが正しいかわからない。二分の一の正解率だ。


(うーん? どうしよう。スキルが解放されてどうなるかわからないけど、得られる力は得ておきたいんだよね)


 左側の像をよく見る。素朴な造りだが、あたたかみがあって、よくできてる。次に右側の像を見る。これもまた、よくできてる。違いがわからない!

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