第14話 武器を手に入れよう



 翌日。

 前夜に徹底的に遺跡めぐりの順番を考えて、これならムダなく一つでも多くの遺跡へ行けるというルートを作った。今日から踏破とうは再開だ。


「今日は西の沼地へ武器をとりに行くよ」

「なー!」

「うむ。ま、がんばるのだ」


 愛馬グランデに乗って牧歌的な村のなかを進む。村にはこの前の農場だけじゃない。あちこちでホプリンが目につく。それに、あきらかに獣人らしき者がいるのだ。数はとても少ないが、村外れには一家で住んでいた。


「ラグナランカシャは平和だから、いろんな種族が逃げてくるのかな?」

「それもあるが、古代には種族の垣根を超えた都だったからの。いにしえよりここで暮らす者の末裔まつえいであろう」

「ふうん。スピカはなんでも知ってるね」

「ふふふ。ふはは。もっと褒めるがよいぞ」


 自慢してるときのスピカは、やっぱり猫だ。


 麦畑と放牧場のあいだの細い道を通り西をめざしていくと、一刻ほどで湿地帯に出る。最初のうちは小川が流れ、キレイな沢だが、だんだんに泥地に変わり、そのうち底なし沼になる。湿地には木の歩道が造られ、その上だけはかろうじて移動できる。蓮の花でレンコンを育てているので、その作業のために造られた歩道だ。


 やっかいな位置の遺跡があるのもここだ。底なし沼のまんなかの小さな浮島に建っているのだ。そこは扉に手をあてなくても、遠くから見ただけで入口の条件がわかった。じっさいにそこへ行くときには、舟か何かの移動手段を講じなければならない。


 が、今日のところはそこまで奥へ進む必要はなかった。緑の光が見えるのは、湿地帯に入ってすぐのところにある。朽ちかけてはいたが歩道もつながっていた。


「うん。大丈夫。やっぱり、手をあてても赤い点滅がないから、試練はなしだね」

「長年のあいだに付近の魔物が住みついておる場合もあるゆえ、油断はするでないぞ」

「わかってる。じゃあ、行こう」


 愛馬は湿地帯に入る前のところに置いてきた。


 最初に入った祠と同じくらい小さな遺跡だ。たとえ入口が無条件でも、これだと子どもしか入れない。扉を押して、なかへ入る。いつもの迎えの光が緑色だ。レリーフに剣や弓矢、杖などの武器が描かれている。


「わあっ、やっぱり武器がもらえるんだ」

「何を言っておる。もらえるのではない。武器が解放されるのだ」というスピカの言葉を聞いて、なんだかとても変な気持ちになる。


「ちょっと待って。もらえるんだよね?」

「解放されるのだ」

「武器の性能があがるってこと?」

「うむ」

「ええー! ぼく、武器なんて持ってないよ?」

「土台はなんでもいいから、そのへんの木の棒でもひろってくるがよい。あっ、でも、試練ない系の遺跡の挑戦権は一度きりだな」

「だから、そういうの最初に言っといてよー! もう入っちゃったよ? 外へとりに行けないよ?」

「ああ……うむ。そうかもしれんな」


 こうなれば、遺跡のなかで武器になる何かを見つけないといけない!


 しかし、妙に保存状態のいい遺跡には小石一つ落ちてない。試練がないせいか部屋も一つしかなく、入口の反対側にほられた壁龕へきがんに飾られた女神の像が、まだかまだかと言わんばかりにぼんやり輝いている。レルシャが近づくとその光が増し、あとずさると淡くなる。待っている。完全に待たれている。


「なー?」


 ニャルニャが丸っこい猫の手で示したのは、天井からぶらさがる木の根だ。いつの時代のものなのか、今はすでに枯れて乾いている。天井はとても低いので、レルシャでも手が届いた。根っこの下のほうをにぎると、いい感じにかたい。これなら、棍棒こんぼうか杖のかわりにはなりそうだ。体重をかけてぶらさがると、ブチッとほどよいところで切れた。


「棍棒にしては細いかな。杖って感じだね。魔力ぜんぜん感じないけど」

「よいよい。おまえにはそれで充分だろう」

「もとはと言えば、スピカがちゃんと教えといてくれれば——」

「ワーワワワ。聞こえん。何も聞こえんぞ」


 耳をふさぎつつ自分で大声を出している。

 しょうがない。とりあえず、武器っぽいものは手に入った。


「女神さま。どうぞ、解放をお願いいたします」


 像の前にひざまずくと、今度こそ安心したように、女神の像が光り輝いた。さっき天井からちぎりとったばかりの木の根の乾物が光を帯びる。


 光のなかで木の根の形が変わっていく。にぎりやすくなめらかになり、さらには節がにぎり部分のすべりどめに、先端は鳥か花のような飾りになった。どこから見ても立派な魔法杖だ。


「杖だ。そっか。ぼく、賢者だから、装備品も魔法杖と相性がいいんだ」

「おまえにはもったいなき、よき杖になったの」


 たしかに、街で売ってる品物と違って洗練された意匠はないが、素朴な味わいがある。それに、持っただけでわかる。強い魔力を秘めた杖だ。

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