三章 遺跡をめぐる

第13話 順番が問題



 ラグナランカシャに来て、はや二十日。村じゅうにあるすべての解放遺跡を調べた。いや、厳密には、山肌に張りつくようにある高所の遺跡は調べていない。子どもの足ではとても行けそうにないのだ。


 しかし、そこはあとまわしでもかまわない。なぜなら、崖の下層にあるいくつかの遺跡の扉に手をあてただけで、それらがきわめて強者むけだとわかったからだ。どれも、千超えの戦闘生命力がなければ、なかへは入れない。さらには鍵も必要なようだ。


「つまり、崖にあるのは上級者むけ。もっと強くなってから、じっくり攻略すればいいんだ。最初のうちは村のなかにあるのを攻めよう」


 丹念に調べてよかったことが、もう一つある。基本的に遺跡は初心者むけから中級者むけ、さらに上級者むけと順番に行けばいいが、まれに強くなりすぎると入れなくなるものがある。


 たとえば、最初に入った祠。スピカと出会ったあの祠は、生命力『1〜10』までの人物しか入れない。レルシャでもギリギリだったのだ。来年だったら、もう入れてない。


「もし、ぼくの基礎値がもっと高ければ、スピカとは会えてなかったんだね」

「グヌヌ……そのように申しても、われはさみしくないぞ?」


 ほんとはさみしいんだなと思いつつ、レルシャは自分で描いた村の地図をひろげる。そこにビッシリとついている印は、すべて解放遺跡だ。全部で三百六十二もある。村のなかだけでも百七十七。洞窟や沼地など、やっかいな場所に八十弱。山肌の下部分におよそ百。

 たまに扉を発見できない遺跡もあり、それらをよせれば、ラグナランカシャの遺跡はもっと多い。


「ねぇ、スピカ。ぼくが扉を発見できない遺跡はなんなの? 解放遺跡じゃないの?」

「解放遺跡ではなきものもある。が、なかには解放遺跡であっても、おまえと波長のあわぬものも存在しているのだな」

「そうなんだ」

「解放遺跡は自身にふさわしいものしか入口を見つけられぬ。遺跡に選ばれるというかの。生涯に一つか二つ見つかれば運のよきほうだ。おまえのように扉じたいを発見してしまうスキルなど、本来あってはならぬ」


 やはり、発見はものすごいスキルだ。


「解放遺跡じゃない遺跡はなんなの?」

「純粋に女神を称えるための石碑であったり、または宝物遺跡だな」

「宝物かぁ。でも、そっちは入口が見つからないから入れないね」

「おまえの装備できぬものは入る必要もなかろう」

「そういうことか」


 とにかく、どの順番でまわれば、もっとも効率的か、レルシャはよく考えた。とくに、入口の条件で生命力が低く設定されている遺跡を、いかにもらしなくめぐるかだ。光の強弱でだいたい何倍くらいの数値が増えるのかわかるので、計算していくと、どうしてもいくつかは行けなくなる可能性がある。


「この東にある十個ならんだ小さい祠は、みんな弱い光だから、二倍ずつ増えるんだろうね。でも、生命力条件が四百までだから、今のぼくだと三つしか入れない」

「いたしかたなきことよ。最初からもっと考慮しておればよかったのだ」

「そうなんだけど、たとえば生命力が一万に増えたあとで、さらに倍々になるかならないかでは、大きな違いなんだよね。西にある沼地の遺跡にも上限がある。こっちは二千だから、まだ大丈夫。二千を超える前に忘れずに行かないと。それと、北の洞窟と、南の花畑の遺跡も。その近くの丘のところは変な条件ついてるしね。生命力じゃなく、解放した回数が十回以内じゃないとダメみたい。難しいなぁ」

「数値ではなく、スキルの威力を伸ばすものがあると申したであろう? さきに攻略すれば、数値には影響されまい」

「なるほどね。でも、数値のやつと違いがわからないよ?」

「光の色が異なっておろう。青く光るのがそれじゃ。叡智えいち解放と言うてな」

「ああっ、そうなんだ! たしかに青いのあるね」


 だとすると、ほかの緑や黄色、オレンジなどにも意味があるのだろうか?


「よし。じゃあ、まず神殿の近くにある青い光のこの二つの遺跡へ行こう。入口の生命力条件も50だから、ぼくでも余裕がある。そのあとは東の十個ならびだ」


 あとは武器だ。神殿の台所から麺棒めんぼうを借りていってもいいが、きっと迷惑がかかってしまう。小麦粉を練るとき必要だろう。


「ぼくに適した武器ってなんだろう? この村って武器屋も防具屋もないしなぁ。お金ももうなくなったし」

「なぁ……」

「あっ、いいんだよ。ニャルニャのせいじゃないよ? ニャルニャはとっても強いし、助かってるよ」

「なー!」


 父に手紙を送れば、きっとお金は送ってきてくれるだろう。が、そもそも手紙を出そうにも、よその街へそれを届けてくれる文使いがいない。毎月、伯爵家の兵士が家族の手紙を届けに来てくれるので、そのときに渡すしかない。つまり、あと十日あまり我慢だ。


 すると、スピカはこんなことを言う。ベッドのなかでモゾモゾしているようすはモグラだ。鼻先だけ出してクンクンしている。


「緑の光は装備品解放ぞよ」

「えっ? 装備品もあるの?」

「ある」


 それなら、せめて武器の一つは欲しい。そういえば、グリーンの光は数が極端に少ない。装備品だったからなのだ。一番多いのは白い光。白は数値を伸ばしてくれると、すでに知っている。


「どっかに試練なしで入れる緑の遺跡がなかったかなぁ」


 地図をながめると、あった。西の沼地だ。入口は無条件。ちょっと遠いが行ってみる価値はある。

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