第12話 スライムとの死闘



 魔物にまわりをかこまれている。こっちの戦闘員はレルシャ一人。敵は八体。たしかに、その魔物は最弱と言われるスライムだ。しかし、レルシャだって人間族最弱の自信がある。一対一なら勝てるだろうが、一対八……。


「スピカ。ぼくが負けたら、神殿の人に迎えに来るよう言ってもらえる?」

「それはムリよの。われの姿はおまえにしか見えていない」

「えー! そうだったの? そういうこと、最初に言ってよー!」


 ゴチャゴチャ言いあっているうちに、スライムは間合いをつめてくる。殺気! スライムたちは本気でやる気だ。


(痛いって、どれくらい痛いんだろう?)


 覚悟を決めて、両手をにぎりしめた。戦うつもりじゃなかったから、なんの準備もしてきていない。せめて、そのへんの木の枝でもひろってくればよかった。いや、どうせ負けるのはわかっているんだから、なるべく痛くないよう、身を守りながら気絶するまで我慢していたほうがいいのかも?


 ポヨン!


 来た。一体だけ色がピンクっぽいのがいる。それがリーダーみたいだ。プルンと体をふるわせると、ほかのスライムたちがいっせいにとびかかってきた。


「わあっ、イタイ! イタイって。イッターイ! いてて、イテテテ……」


 ポヨン。ポヨン。ポヨン。ポヨン。ポヨン。ポヨン。プヨン。


 とめどないゼリーラッシュ。ヒットポイントが一ずつ減っていくのがよくわかる。ものすごい大打撃ではない。ないのだが、確実にちみちみ削られていく、この感じ……。


(もうダメだ……目がまわるよ……)


 意識がもうろうとしてくる。これが死ぬって感覚なんだなと、生まれて初めて思った。パンチどころか、反撃なんて一発もできない。何しろ、レルシャのまわりを輪になって、スライムたちは順番にアタックしてくるのだ。


 あと一撃で失神する。

 そう思ったときだった。


「なー!」


 両手で頭をかかえ、丸くなってしゃがみこんだレルシャの目の前に迫っていたゼリーのかたまりが、なぜか、急に視界から消えた。


「ん?」


 いや、消えたわけじゃない。目をあけると、またすぐ顔の前まで迫っている。さっきのは幻影だったのか?


「なー!」


 だが、目を閉じた瞬間、絶妙に脱力する鳴き声がして、スライムの攻撃が止まる。まぶたをあげてみると、やっぱり間近にスライムの瑞々みずみずしいボディが!


「なー!」


 今度は目をあけていた。おどろいて、目をつぶるヒマもなかったのだ。すると、レルシャのよこからニャルニャがとびだして、見事なネコパンチをくりだす。スライムは壁までふっとんだ。見れば、すでに二体、壁ぎわでグッタリしている。


「なー!」


 ボヨン!


「なー!」


 ボヨン!


「なー!」


 それが八回くりかえされた。気がつくと、死屍累々ししるいるい(気絶してるだけ)。スライムの山ができていた。


「なー」


 どーだと言わんばかり、ニャルニャはシュシュッと左右のパンチをふる。ふだんのゆるい動きからは想像もつかない速さだ。


「すごーい。ニャルニャ。強い!」

「なー」


「なー」しか言わないが得意げである。


 短い前足を組むスピカは、今度は子馬の姿だ。

「ふむ。そのホプリンはどうやら、戦闘用だったのだな。ホプリンはほとんど召使い用だが、まれに精霊の護衛のために戦闘に特化して造られたものがある」

「わぁ、やったー。ラッキーだったね」

「なぁ〜」


 やっぱり、買っておいてよかった。自分で戦ってないのに試練を乗り越えたかと言われれば、ちょっとズルイ気もするが、運も勝負のうちだ。ふらふらにはなったが、どうにか進むことができた。


 スライムたちが出てきた四角い穴のなかへ入ると、その奥が祭壇になっていた。女神の像がまつられている。ひざまずくと、優しい光がレルシャを包んだ。発見スキルで見た光が強かっただけはある。この解放で、レルシャの才光の玉はいっきに八個になった。


「四倍だ! ヒットポイントが八十になった!」

「それはよいが、おまえ、自分で戦えるようにならねばな」


 たしかに、スピカの言うとおりだ。数値だけ伸びたって戦えないんじゃ意味がない。考えてみれば、これまで基礎値が低いからと、剣の稽古けいこ一つさせてもらえなかった。ナイフすらにぎったことがない。


「うーん。今回は反省点が多かったな。扉の数字は最低でも必要な生命力なんだ。もっとゆとりを持ったほうがいいね。それに赤い点滅が見えたら、なかで戦闘がある。武器も持っておくべきだし、戦いかたを学ばないとだし。まずはどこがどのくらいの生命力で入れるのか、全部の遺跡を調べて、それから行く順番を決めたほうがいいね。よくばらないで、ちょっとずつ強くなったほうが安全なんだ」

「うむ。それがよかろう」

「なー」


 遺跡めぐりのコツが、だんだんわかってきた。

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