第11話 あらためて、遺跡へ
猫ホプリンを購入した。
手をつないで歩くと、ニャルニャは嬉しそうにレルシャの顔を見あげる。
「ホプリンって何を食べるのかなぁ?」
「ホプリンの好物は甘いものだな。砂糖やジャム。お菓子。またはフルーツ。一日一回あたえれば、喜んで働くぞよ」と、スピカ。
カバンから梨を出してあげると、たしかに喜んだ。
「スピカとホプリンって、どっか似てない?」
「くぉらー! どこが似てるというのだ? どこが? この高貴なるわれと下等動物精霊のどこが!」
「はいはい」
「しかし、解放遺跡に入るのに、そいつは足手まといになるであろう。部屋に置いてきたほうがよい」
「うーん」
昼食までにせめて一つは
「つれていっちゃいけないの?」
「さような決まりはない。従者や仲間はともにいてもかまわぬぞ」
「なら、いっしょに行くよ。ね? ニャルニャ。ぼくを守ってくれるよね?」
「なー」
わかっているのかいないのか、ニャルニャのぬいぐるみっぽい顔からはわからない。でも、どうせ、扉から入って出るだけだ。問題はないだろう。そう考え、いっしょに歩いていく。
四辻のすみに遺跡があった。最初の祠にくらべたら、だいぶ大きい。少なくとも、こぢんまりした一軒家くらいはある。まわりは牧場だ。牛や羊しかいない。
「よし。ここにしよう」
「ああ……ここは、よしたほうがよいな」
「どうして?」
「おまえにはまだ早い」
スピカは言ったが、レルシャは聞かなかった。扉に手をあてると『20』と頭に浮かんでくる。
(20? ぼくの基礎値は2だけどな)
だが、手で押せば、扉はむこうがわに動く。なかへ入れるようだ。
(てことは、たぶん、この数字は基礎値じゃなくて生命力なんだ。生命力が20に達してないと入れない条件か)
それに、昨日と違って、赤いピコピコ点滅する光も感じる。それが何かわからない。でも、生命力20なら、ちょうど昨日の解放で条件に達している。
「よし。行こう」
「ああ……行くのか? われは止めたぞよ? もう知らぬからな?」
スピカの言動は気になるが、
扉を押しひらく。今回はちゃんと立って入られる。最初の祠のように一瞬、まぶしい光が出迎えた。その光がおさまると、レルシャは目をあけた。昨日は暗かったが、ここはまわりが見える。
「われのおかげだ。感謝するがよい」
「明るいのはスピカの力なんだぁ。ありがとう」
「うむうむ。もっと感謝してよいぞ」
喉の下をくすぐってやると、スピカはゴロゴロ音をたてる。
四方の壁には古代の文字やレリーフが刻まれていた。何万年も前に造られたものだとは思えない。彩色もあざやかだ。
「古代語の勉強もしないといけないねぇ。ここになんて書いてあるのかわかればいいのに」
「なんじ、解放を受けたくば、わが試練を乗り越えるがよい。そのさきに栄光が待つ——と記されておるぞよ。ほかはまあ、昔の定型句だな。女神をたたえる詩だとか」
「試練……?」
そういえば、今の今まで忘れていたが、クーデルの遺跡には強いガーゴイルがいたという。それでなくても、遺跡のなかはダンジョン化しているところがある。
「……もしかして、なんか出るの?」
違うと言ってほしかったけど、スピカは断言した。
「出る!」
ニヤリと笑う顔はキツネだ。やっぱり、ホプリンに似てるとレルシャは思う。スピカの姿はホプリンによくある動物のどれかに変化している気がするのだが。
そんなことを話しているうちに、さっそく目の前の四角い穴から何かがとびだしてきた。半透明なプルプルゆれるゼリー……スライムだ。
「よかった。スライムか。スライムなら、今のぼくでも一人で倒せるよ」
戦闘生命力20が条件なら、出てくる敵も強いはずがない。レルシャがホッと胸をなでおろしたそのとき——
ポヨン!
プルプル!
プルップルン!
ポヨンプヨン!
続けざまにスライムがとびだしてくる。全部で八匹……。
(ダメだ。やられる。ぼくの力じゃ、せいぜい二匹しか……)
逃げるしかない。急いで入口へ戻った。が、扉は閉ざされ、重く動かない。
「あ、そうそう。解放の遺跡は一度入ると、解放するか、試練にやぶれるかしないと出られなくなるからな」
かるい調子のスピカに、レルシャはちょっと恨みがましく思った。知ってたなら、入る前に言ってほしかった……。
「ど、どうするの? これ」
「倒すのだ! 自身の力で試練を乗り越えるのだー!」
「スピカは手伝ってくれないの?」
「われは見守る役目よの」
「ぼ、ぼく、死んじゃうんだけどぉー!」
「なーに。解放遺跡の試練では負けても死なんから、安心するがよい。気絶して外にほうりだされるだけだ」
「ペナルティはないの?」
「しいて言えば、『痛みは本物』であろうかな。はっはっはっ」
痛みは本物……そんなのイヤだ。
「あっ、あとな。同じ遺跡に挑戦できるのは二回までだからな。失敗すれば、この遺跡にはあと一度しかチャレンジできぬぞよ」
「だから、なんでそんな大事なこと、さきに言っといてくれないんだよー」
スライムたちがまわりをかこむ。
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