第10話 輝く未来
なんということだろう。
解放遺跡は一つにつき一度だけ。だが、その遺跡がまわりじゅうに数えきれないほどある。しかも、ほかの人たちには見えない入口が、レルシャにだけは見えるのだ。
(発見スキルだ。ぼくの発見スキルは解放遺跡の扉を見つける力だったんだ!)
一生続く暗闇を歩いていくのだと思っていた。もうここからぬけだすすべはないと。その覚悟もあった。だからこそ、ソフィアラの幸せを願い、本心を押し殺して残してきた。孤独の谷底を歩くのは自分一人でいいと。
なのに、とつじょ、天からまばゆいばかりの光がさし、レルシャの行く道をすみからすみまで明るく照らしだしたのだ。足元に咲く小さな野の花のその花弁の数まで数えられるほどに。
(ぼく、もしかして、ものすごく強くなれるんじゃ? 根気よくやれば、兄上よりも強くなれるんじゃ?)
翌日から、レルシャは遺跡めぐりだ。村じゅうにあるすべての遺跡を
「スピカ。まずはどこへ行こうか? やっぱり、基礎値が低すぎるよね。いっきに十倍増えれば、今のぼくでも二百の生命力……す、スゴイね! どうやったら、そんな遺跡がわかるんだろう?」
そういえば、昨日は祠の扉にふれたとき、1〜10と数字が頭に浮かんだ。あれはどういう意味だったのだろう?
「ねぇ、スピカ。解放遺跡って、入るのに条件があるんだって? 父上がそう言ってたよ」
「うむ。誰でも無条件で入れる遺跡もある。そういうのは小さい祠だ。だが、造りが大きいほど、強くなければ入れぬようになっておるな」
「そうなんだ」
「条件はないものの、鍵が必要であったりな」
「鍵かぁ。それ、どこにあるの?」
「遺跡の最奥に、より強い遺跡の鍵がしまわれていることがある。あとは、かつて女神との盟約をかわした王家に代々伝わっておったりな」
「ふうん」
とにかく、住居の神殿に近い遺跡から、徹底的にふみこむまでだ。条件に見あわなければ入れないというなら、さしたる危険はないだろう。
この考えが甘かった。
朝食のあと、カバンにパン、チーズ、厚切りベーコン、梨とリンゴを一つずつ入れ、皮袋には水。この村までレルシャを乗せてきてくれた愛馬グランデをつれて、外へとびだす。家から追放されて落ちこんでたはずなのに、案外元気なので、ウーウダリは不審に思ったかもしれない。
「レルシャさま。今日も散歩ですか?」
「うん。行ってきます」
「村の人たちはおだやかですが、なかには他人とのかかわりを嫌う者もいます。それだけは気をつけてくださいね」
「わかった」
さあ、今日はどの遺跡へ行こうか?
最初はとにかく数をこなさないと、早く強くはなれない。もとのレルシャが弱すぎる。近場を三つくらい
昨日は神殿の裏手を歩いただけなので、今日は表方面にまわる。強い光をめざしていくと、途中で農家があった。おどろいたことに、畑仕事や家事をしているのは人間ではない。ホプリンだ。
「わあっ。ホプリンだ。可愛い」
レルシャの背丈の半分くらいしかない動くぬいぐるみみたいな二足歩行の生き物。それがホプリンだ。古代、精霊が自分たちの召使いとして森の獣から造ったと言われる。だから、知能は動物なみでそれほど高くないものの、忠実でよく働く。全身は毛におおわれ、見ためは猫、ウサギ、キツネ、犬、クマ、鹿などが多い。エルフの一種だ。
スライムとならぶ最弱モンスターとして有名なウサギ型の魔物ぽよぽよは、野生化したホプリンではないかとも言われる。
本で読んで知ってはいたものの、見るのは初めてだ。あまりに可愛いので、レルシャはしばらくながめていた。みんな、見ための愛くるしさからは想像もつかないほど力持ちで俊敏だ。自分より大きな農具を持って、平気で畑をたがやしている。
でも、よく見ると、一匹だけ、ほかの子たちにくらべて、やけに動きがゆっくりな子がいた。純白の毛なみの猫型ホプリンだ。
そのホプリンは収穫したカボチャを背負って運ぼうとしているのだが、カゴからあふれて、どうしても一つこぼれてしまう。ひろってカゴに入れると、またこぼれる。あせってかがみこむと、カゴからカボチャがゴロゴロころがりだした。
困りはてている。
そのようすが、なんだか、むしょうに可愛らしい。
レルシャは柵をくぐって農場に入ると、カボチャをひろって一つずつカゴに入れてあげた。そして、最後の一つはホプリンの両手に持たせてあげる。
ホプリンは小さな牙を見せて嬉しそうだ。
「がんばってね」
ホプリンはニャーニャー言いながら、近くの小屋へ走っていった。
はははと近くで笑い声が起こる。
「坊や。ホプリンを見るのは初めてかい?」
ふりむくと農夫が立っていた。農場のぬしだろう。
「はい。可愛いのに働き者なんですね」
「うん。おかげで助かってるよ。ただ、さっき、おまえさんが見てたニャルニャはどうも出来が悪くてな。失敗ばっかりするんだ」
「そうなんですか」
すると、農夫はレルシャの身なりを見て、こう言いだす。
「どうだね? ニャルニャを買わないかい? 銀貨十枚でいいよ」
ホプリンの売買なんてしていいのかよくわからない。ゴーレムみたいなもので所有権があるのか。相場もわからない。お買い得かもしれないし、ものすごく、ふっかけられているのかもしれない。
「どうしよう? スピカ」
「よせよせ。やめとくがよい。ホプリンなんて、召使いの役にしか立たないぞよ。それも、こやつは出来そこないであろう?」
出来そこない——そう言われると、レルシャの胸が痛む。ずっと故郷ではそう言われていた。
見れば、小屋の戸口から、ニャルニャが半分顔を出してのぞいている。レルシャの返事が気になっているようだ。
「いいよ。買う。銀貨十枚なら、ぼくでも買える」
それは旅立つ前に父がくれたお小遣いの全部だった。それでも、かまわない。
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