第9話 初解放
パァッと目の前が光った。体のなかまで照らされそうなものすごい光だ。
気がつくと、レルシャは祠の外に立っていた。
「ん? なんで、ぼく、ここに?」
たしか解放されたはずなのだが、気のせいだっただろうか? それとも、能力値があがったのか?
たしかめるには女神の鏡で見ないことにはわからない。あるいは護符石を確認するか。
生まれたときに女神の杖から生じてくる才光の
あわてて、鎖をひっぱって服の外へ出してみる。コロンと白銀の真珠に似た玉が二つ……。
「ふ、ふ、二つだ! 増えてる! 倍になってる!」
「あたりまえであろう。解放すると申したではないか。おまえはほんとにトロイやつよな」
「ん?」
変だぞ。祠からは出てるのに、まだあの案内人とかいうものの声が聞こえる。それも足元からだ。
「クスクス?」
「その呼びかたは好かんな。おまえが呼んでいいのは、われの一番下の名前だけだ!」
「えーと?」
「スピカさまと呼ぶがよい」
レルシャは声のしたほうをふりかえる。いた。たしかに、いた。
「……」
「……」
しばし、見つめあう。
「……小さいんだね」
そう。とても、小さい。
いばりくさった語調だから、どんなに頼りがいのある姿形かと思えば、子どものレルシャの手にも乗るほどのきわめて小さな馬のような猫のようなウサギのような何かだ。キツネのようにも見える。真っ白なので、なんなら綿毛。
「あっ、よく見たら、背中に翼がある」
「われこそは神聖なる神の御使いにして、第百七十代、解放遺跡の管理者兼案内人——」
「ふうん。じゃあさ。スピカはなんで、外に出てきたの? 遺跡の管理者なら、遺跡のなかにいないとダメだよね?」
「くぉらぁー! スピカさまと呼べと申したであろう?」
「スピカさま。ねぇ、なんで?」
スピカは何やらモジモジした。そのたびに形がより猫っぽくなったり、ウサギっぽくなったりする。どうやら形が完全には定まってない。
「その……なんだ。案内人は誰かが遺跡に入ってこなければ仕事がないのだ。最後にこの祠に人が来たのは何千年——いや、何万年前だったろう? あまりにも待ちすぎて、その……なんだ。ちょいと退屈したのだ。だから、おまえについていってやる。うむ。そう。おまえの成長を見届けてやろうではないか」
そんなふうには見えない。むしろ、
「……もしかして、スピカ、さみしいの?」
「ギャッフー!」
「さみしいんだ」
「ウググ……」
「いいよ。ついてきても」
「ギュヌヌ……よかろう。おまえが一人前になるまで案内してやろうではないか。よいか? われに感謝するのだぞ?」
「うん。ありがとう」
ニッコリ笑うと、スピカはレルシャの背中をよじのぼり、肩に乗ってきた。レルシャも家族と離れてさみしかったから、ちょうどいい友達ができた。ウーウダリも親切だが、かたくるしくて、どことなくよそよそしい。友達というよりは召使いという感じ。
肩に乗ったスピカは完全に猫だ。キレイな白猫。手乗りサイズではあるが。
「スピカは猫なの? ウサギなの? それとも馬? なんで姿が変わるの? それに、すっごく小さいよね?」
「ウググ。うるさいわ。われの姿は祠に入ってきた者の能力を表しているのだ。われがちっこくて可愛いのは、おまえのせいなのだ!」
「自分を可愛いとは思ってるんだね?」
「むろんだ。われは至高の存在ゆえな。もとの神々しい姿を見せてやれぬのは無念だが、たとえどんな姿であっても美の極みであることに変わりはない」
思わず、レルシャはふきだした。ずいぶん、うぬぼれが強い。これで、ラグナランカシャにいても退屈はしない。いいおしゃべり相手ができた。
「さっきの解放で玉が一つ増えたから、ぼくの生まれたときの基礎値が二倍になったんだよね?」
もしそうなら、現状のレルシャの戦闘生命力は20になっている。基礎値を伸び率でかけたものが、その人の成人したときの最大生命力。成人するのはだいたい十五歳だから、それを十五で割り、さらに経年をかけると、現在の生命力になる。
「うむ。ほとんどの解放遺跡は能力値の倍増だな。が、まれにもっとレアな遺跡も存在するぞ」
「えっ? どんな?」
「たとえば、スキルの威力を増大させる」
「スゴイね。そうだ。さっきの祠にもう一回、入ろう。そしたら、ぼくの能力値さらに二倍になるんじゃないの? いっきに四倍……八倍、十六倍……」
それなら、あっというまに生命力が百は超える。根気よく毎日入れば、千、二千だって夢じゃない。
が、スピカは首をふる。
「横着を言うでない。解放の遺跡というのはだな。一つの遺跡につき、一人一度しか解放を得られないのだ」
「あっ、そうなんだ」
それはそうだ。もし何度でも効果があるのなら、一つ見つけさえすれば、どこまででも強くなれてしまう。
やっぱり、幸運なんてそうそうは起きないものなのだ。十が二十になっただけでも充分だ。レルシャの成長期はまだ五年続く。五年後には生命力30にはなっている。戦士としては弱いが、これでふつうの村人なみにはなれた。スライムに一打ちされるほど軟弱ではなくなった。
だが、ここで急にレルシャは気づいた。
「……あれ? さっき、一つの遺跡では一回って言ったよね?」
「うむ」
「この村って、なんかいっぱい光る遺跡があるんだけど……あれって、全部、解放遺跡?」
「もちろん」
あれが全部、解放遺跡。奇跡だ……これが奇跡でなくて、なんだというのだろう?
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