レシート


 お金を失くした。千円札が4枚で、4000円。


 ほとんどの働く大人にとってはたかが4000円、されど私にとってはなけなしの4000円。必死に記憶を辿る。

 昨日の昼休みにイオンの食品売り場のセルフレジでパックの豆乳飲料を買ったとき、樋口を野口に替えた、それはたしかに覚えている。そのあとは仕事帰りにドラゴンズショップに寄ってガチャガチャを1回やったが、あれは500円硬貨専用だったから触ったのは小銭入れだけ。ちなみにガチャはドアラが出た。そこそこ引きが強い。

 それ以降は財布を出していないので、お札が消えるはずはない、のだが。

 ストライキか? もうすぐ北里柴三郎に替えられるからグレたのか? ストなのか、野口?


 とはいえ無いものは無いのだから仕方がない。幸いにも各種支払いは済ませたあとだったが、不幸なことに勤め先は給料日が10日なのである。頭の中に節約の二文字が渦巻く。とりあえずお出かけは全キャンセル、扇風機も買うの延期、毎日パック豆乳ランチの極貧生活や、ガチャガチャ回しとる場合じゃねーぞ。


 そこでふと気付く。

 どきどき。


 ダメ元でイオンに向かい、サービスカウンターで昨日のレシートを渡す。「4000円の釣り銭忘れ? 見たかもしれない」と店員さんがざわついた。しばらく後、バックヤードから戻ってきた店員さんの手にはジップロックの袋に入れられた野口。78円の豆乳飲料ひとつのために4000円を失う恐怖に怯える私を哀れに思ったのだろうか、お手数をおかけしたにも関わらず店員さんは良かったですねと微笑んでくれた。


 取り忘れたお釣りがきちんと保管されているなんて日本はすばらしい国だ。

 そしてたかが78円の買い物でもレシートをちゃんと取っておいた自分も間違いなくすばらしい。些細なことでも自己肯定感をアゲげていこう。


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